「月の落とし子」穂波了著
「宇宙船墜落タワマン炎上バイオハザードミステリ」と、担当編集者がツイッターに書いていた。うまいことを言うものだ。本当にその通りなのである。
冒頭の宇宙空間のくだりが素晴らしい。スリルとサスペンスに富み、なおかつ新鮮なのである。この100ページを読むと、もう本を閉じることはできない。あとは一気読みだ。すぐに明らかになることだから、ここにも書いてしまうが、月面に降り立った宇宙飛行士が吐血して急死するのだ。正体不明のウイルスに感染したらしい。問題は他の乗組員も感染して死ぬことだ。たった一人、生き残ったのは、宇宙船を操縦する工藤晃。その状態で地球に帰還すれば、正体不明の未知のウイルスが地球にばらまかれることになる。はたして地球側はそれを許すのか。地球側の結論が出る前に、工藤晃は地球に帰還しないことを選択する。人殺しにはなりたくないと。
ところが、おお、この先も書いてしまうが、人工衛星と衝突して操縦不能になり、地球めがけて墜落を始めるのだ。できることは墜落地点を変えることだけ。できれば海上にしたい。工藤晃は必死に操縦かんを握りしめる――ここまでで100ページ。まだ250ページ残っている。波瀾万丈の物語をたっぷりと堪能されたい。作者の穂波了は別名義で13年前に第1回ポプラ社小説大賞を受賞しているが、この第2作はそれをはるかにしのぐ傑作だ。
今年度のクリスティー賞の受賞作である。
(早川書房 1800円+税)