「温泉博士が教える最高の温泉」小林裕彦氏
「寒いこの季節こそ温泉へ!」と奮発して予約した豪華な温泉宿。でもその温泉、ほんとに効果あり? もしかしたら、塩素たっぷりの温水プールと同じ? そんな疑惑をバッサバッサと斬りつつ、本物のかけ流し温泉を紹介しているのが本書だ。何しろその著者は「不正は許しません!」と日々、闘っている現役の弁護士。正真正銘の「源泉かけ流し」を求めて、日本全国2000カ所の温泉に漬かって歩いたという。
「仕事であまりにも疲れ果て、35歳の時、一人で岩手の秘湯に行ったんです。そしたら心も頭も体の疲れも吹っ飛んだ。それから暇さえあれば温泉に行くようになりました」
そのうち温泉にはまり過ぎて、のんびり宿で疲れを癒やすどころではなくなった。熊に遭遇したり、崖から落ちそうになったりしながらも、早朝から夜まで7、8カ所の温泉を巡る温泉マニアに。
しかし、仕事柄、気になるのが偽物の温泉だ。
「もともと温泉施設は、源泉の成分は何か、何に効くのかなどを書いた温泉分析書を貼ることが義務付けられています。これだけ読めば、健康にいいのではと思ってしまうのですが、実は、地中から湧き出る天然のお湯をかけ流している源泉かけ流し温泉は日本の温泉施設全体の約1割で、あとは排水溝から出たお湯を濾してタンクに戻してまた使う循環式なんですね」
温泉の量が少ない施設では水道の水で薄め、沸かし直して塩素で殺菌をしながら、7日間も同じお湯を使っている宿も少なくないらしい。
「使い回して塩素たっぷりのお湯なんて、効用もなくただの温水プールで逆に体に悪い。もちろん、温泉の成分より宿の景色やお料理が大事だという人もいるでしょう。けれど、温泉の効用にこだわる人にとっては必要な情報なのです」
ようやく2005年に温泉法が改定されて、かけ流しか循環か、消毒のための薬剤を入れているのか、加水や加温なども掲示しなければならなくなった。
「日本の9割の温泉施設は循環式ですからね、そんなものは隠したい。現状は循環なのに源泉100%かけ流しと平気で宣伝しているところもあります。事なかれ主義の行政も取り締まっておらず、これは消費者を欺く行為です」
眉間にシワを寄せて熱弁を振るう著者に、どうしたら本物の温泉を見極められるのか聞いてみた。
「においで分かるようになりますが、入浴してからでは遅いですよね。別府や草津などお湯が豊富で源泉を大事にしている地域では不正は少なく、山の中の一軒宿は自家源泉の場合が多いので新鮮なお湯が楽しめます。日本秘湯の会のHPを見たり、温泉宿の予約前に電話で問い合わせてもいいでしょう」
本書では、弁護士の厳しい目で選んだ北海道から九州まで全国各地の正真正銘のかけ流し温泉を300カ所、写真と共に紹介しているが、お手頃で泉質のいい温泉宿をゲンダイ読者のために教えてもらった。
「関東なら二岐温泉の柏屋旅館(福島)、下部温泉の古湯坊源泉館(山梨)ですね。関西なら白浜温泉の民宿望海(和歌山)、川内高城温泉の双葉旅館(鹿児島)などがお薦めです。ぜひ正真正銘の温泉を楽しんでください」
(集英社 1600円+税)
▽こばやし・やすひこ 1960年、大阪市生まれ。一橋大学法学部卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。92年に弁護士になり、岡山で事務所を開く。企業法務、訴訟関係業務、行政関係業務、事業承継などを扱う。全国各地の温泉巡りが趣味。