「銀色の国」逸木裕著
現実の世界で生きづらいと感じている人間が「銀色の国」にやってくる。そこは、VRの世界だ。バーチャルリアリティー。ゴーグルをかけると、誰もがその国に行くことができる。現実を忘れることができる。いやそれは、彼らにとってもうひとつの現実だ。
問題は、そのVRの世界が自殺へと導く悪魔の世界であることだ。そのことに気づくのが、自殺防止のNPO法人レーテの代表者田宮晃佑。かくて晃佑の探索が始まっていくことになる――という紹介では、この長編の美点は伝わらないかもしれない。
そのVRを考えた人間の言い分と、巻き込まれる者の苦難と苦悩。そして「銀色の国」に入っていく人間の、驚きと不安と救済。それらが実に丁寧に描かれていくことをまず説明しておかなければならない。さらに探索する側にも、天才的なゲームクリエーターでありながら卑劣なワナにかかって業界を追われた男をはじめとして、晃佑を助ける者がいる。それらのドラマもダイナミックだ。いくつもの挿話が積み重なって、どんどん複雑に絡み合っていく。要するに、色彩感豊かな物語なのである。
十半(マージャン牌を使って興じるブラックジャック)という遊びをさりげなく紹介する物語の余白もよく、逃げることはけっして悪いことではないというラストのメッセージもいい。ダメ押しは、何度も目頭が熱くなってくるドラマ作りだ。まことにうまい。
(東京創元社 1700円+税)