「アウターライズ」赤松利市著
アウターライズとは、陸地から見て離れた外側の地形のことで、そこで起きる地震は離れているために陸地の揺れは比較的に小さい。ところが、併発する津波は大規模なものになりやすい。
そのアウターライズ地震が、東日本大震災から10年後に東北をふたたび襲うのである。それが第1部の「襲来」。その様子は克明には描かれない。なぜなら、本筋はそれに続く第2部「開国」にあるからだ。
「開国」とは何か。アウターライズをきっかけに東北6県が日本から独立するのである。
「東北国」は国民に無条件で生活費を支給するベーシックインカム制度を実施。成人で25万円、未成年には10万円。さらに医療費がタダ、家賃は国が負担。ちなみに首都は、郡山だ。独立してから約3年後に、日本国のジャーナリスト一行を、「東北国」は迎え入れる。で、日本国のジャーナリスト一行が「東北国」の内部に入って、さまざまな説明を受けるのが第2部「開国」である。
国民に資金をばらまいて、しかも税金がなしとは、いったい「東北国」の資金はどうなっているのか。そういうことは本書を読まれたい。もう少し、「東北国」のディテールを読みたかったとの気持ちがないではないが、それはよしとする。東北6県が独立する小説は本書が初めてではなく、西村寿行著「蒼茫の大地、滅ぶ」という先駆的傑作があり、それには及ばないが、しかし本書も楽しい。
(中央公論新社 1700円+税)