「レッド・メタル作戦発動(上・下)」マーク・グリーニー&H・リプリー・ローリングス四世著 伏見威蕃訳
共著者のH・リプリー・ローリングス四世は、アメリカ海兵隊の大隊長をつとめた元軍人。本書は、ハイテク軍事スリラーなので、軍事作戦の細部をレクチャーしてもらったと思われる。執筆はもちろん全部、グリーニーだ。
冒頭は、台湾と中国の間に緊張が生まれ、アメリカと中国が一触即発の危機を迎える。さらに、軍内部にスキャンダルが起きて、アメリカ軍は大混乱。そういう話がどう展開していくのかなと思っていると、陰で極秘作戦を計画するロシアの話に移行していく。
アフリカ、ケニアのレアメタル鉱山をロシアは狙っているのだ。その極秘作戦にアメリカとNATO軍はなかなか気がつかない。そしてようやく事の真相が判明して戦闘が始まっていくが、この大作のポイントはポーランド国内の陽動作戦である。
ここに登場するパウリナに留意。彼女はワルシャワ大学の学生で、カフェで働いている。パウリナはポーランドの民兵組織である国土防衛隊に参加しているが、プロの兵士ではない。戦争に巻き込まれた祖国で、そのパウリナがいや応なく戦闘に立つ局面に注意。兵士のひとりと恋に落ちたときの胸の鼓動と、彼を失ったときの悲しみ――その濃い感情のドラマが行間から立ち上がってくる素晴らしさに注目したい。グリーニーのこういう一面を初めて読んだ。ただのハイテク軍事スリラーではないことを強調しておきたい。
(早川書房 各980円+税)