「四神の旗」馳星周著
「比ぶ者なき」に続く古代史小説だ。前作を未読の方も安心して読まれたい。私自身も前作の存在を知らず(すみません)、本書を読んであわてて前作に遡った。
いやあ、面白い。馳星周初の時代小説が古代史小説とは驚くが、中身もすごいからびっくりの2乗。著者、渾身の新境地である。
まず、背景がぶっ飛びものだ。日本書紀は藤原不比等が捏造したものだというのである。これは大山誠一の学説をもとにしたものだが、何のために捏造したのかというと、そこに不比等の野望がある。ちなみに聖徳太子も実在の人でなく、不比等の捏造だったというのだが、それも同じ道筋で理解される。
前作「比ぶ者なき」は、藤原不比等の縦横無尽の活躍を描いたが、本書「四神の旗」は、不比等の死後、その息子たちの権謀術数を描いていく。
偉大な父が成し遂げられなかった夢の実現を目指す長男の武智麻呂。兄に逆らってでも律令を守ろうとする次男の房前。唐にならって理想の国造りを目標にする三男の宇合。そして醜い政治の世界に馴染めない四男の麻呂。この4人が描きわけられているのがまずいいが、脇を固める人物も多士済々。中でも、情もないが私心もないという四兄弟の政敵、長屋王の造形がいい。人の機微に無頓着であるだけでなく、自分は間違ったことはしていないという確信がありすぎるのが、のちの悲劇につながっていく。馳星周の傑作だ。
(中央公論新社 1700円+税)