「ジグソー・キラー」ナディーン・マティソン著、堤朝子訳
連続殺人鬼は刑務所に収監されているというのに、同じ手口の殺人が起きる──という冒頭から始まる物語は珍しくない。しかも連続殺人鬼が死体にほどこすシンボルまで彫られていた(これはマスコミにも公開されず、捜査関係者にしか知らされていない)。では、刑務所に収監されている連続殺人鬼から聞いたやつが犯人に違いない。単なる模倣犯なら知っているはずがないのだ。というわけで、刑務所に面会に行くという最初の展開も、これまで何度も読んできたような気がする。つまり新味がない。
にもかかわらず、650ページの長編を一気読みしてしまうのは、細部がいいからだ。人種のるつぼと言われているロンドンでも、黒人の女性警部補は珍しいようだが、このヒロイン、連続犯罪捜査班の警部補アンジェリカ・ヘンリーが大活躍するのだ。危険な警察の仕事はやめてくれと夫は何度も要求してくるし、愛娘とゆっくり過ごす時間が取れないほど忙しいし、上司は口説いてくるし(しかもこのヒロイン、応じたりする)、アンジェリカは仕事がなにより大好きなので、へこたれないのだ。
連続犯罪捜査班の面々を主人公にしたシリーズの第1作で、今回はアンジェリカの相棒になった見習刑事ラムーターが縦横無尽に走りまわるが、このあとも順調に翻訳されていけば、他の面々の活躍ぶりも見られるかもしれない。次作を楽しみに待ちたい。
(ハーパーBOOKS 1480円)