「浪曲は蘇る」杉江松恋著
玉川福太郎と伝統話芸の栄枯盛衰、と副題の付いた書だが、いやあ、面白い。
浪曲初心者には知らないことばかりなので、そうだったのかと膝を打つことの連続なのである。たとえば講談、落語、浪曲の三大話芸を比べてみると、講談の歴史がいちばん古く室町時代、次に落語は江戸時代中期まで起源を遡ることができるが、浪曲は比較的新しく明治に入ってからだという。
大正から昭和前期が浪曲の全盛時代で、浪曲師は全国で3000人(現在の落語家が東西で900人であることと比べれば、すごい数である)だったが、テレビの普及とともに人気は下火になっていく(テレビ向きの芸能ではなかったことがその理由のひとつだと著者は書いている)。
本書はこの50年間の浪曲界の変遷を、玉川福太郎を軸に描いていくが、その福太郎の二番弟子、玉川お福は50歳を過ぎてからの入門というのが興味深い。大病から回復したあと、残りの人生は好きなことをしていきたいと、以前から好きだった浪曲の世界に飛び込むのだが、このように講談、落語に比べて、デビューの年齢が遅いケースが少なくない。
浪曲界は慢性的な新人不足で、「浪曲がいちばん早く稼げるよ」と言って新人を勧誘するエピソードが本書にあるのも、その間の事情を語っている。日本テレビの「進ぬ! 電波少年」にケイコ先生で出演したことのある春野恵子が、のちに浪曲師になっていることを本書で知った。
(原書房 2200円)