「小売業の実践SDGs経営」渡辺林治編著
小売業に特化したSDGs経営について、基礎知識から実践プロセスまで解説。
小売業のSDGs経営には3段階のステップがあり、第1段階で不可欠なのがトップのコミットメントだという。本書ではSDGs経営を高い水準まで推進している企業を例に挙げながら、実践方法を紹介している。
高島屋では1997年に会長が社会貢献室の初代室長となり、社長がCSR委員会の委員長に就任。セブン&アイでも社長がSDGs経営に積極的であり、加えて創業家出身の役員がサステナビリティー戦略を推進している。
第2段階で行うべきは、SDGsの視点を経営戦略へ具体的に融合させること。消費者の関心が強い環境項目は取り込むことを大前提としつつ、従業員や地域社会、取引先、株主などすべてのステークホルダーと、対話を通じてニーズを探る必要がある。東日本エリアでスーパーを展開するアークスでは、女性店長の登用や慈善活動の強化、そしてトラックなどの自動車で行われる貨物輸送を環境負荷の低い鉄道や船舶へと転換するモーダルシフトを掲げている。
第3段階では、SDGs戦略を競争力の強化へと進化させていく取り組みが必要だ。新潟や群馬を中心にスーパーを展開するアクシアルリテイリングでは、地域ライフライン強化を目指し、特定地域内に集中した店舗展開を行うドミナントを推進。丸井グループでは社会課題の解決を目指し、顧客と共に製品開発を進めている。
実は小売業にとってSDGs経営は難しくないと本書。小売業が担ってきた社会的役割を時代の変化に合わせて定義し直すことで容易に取り組むことができ、長期の維持発展につなげることができると説いている。
(慶應義塾大学出版会 2200円)