「アフリカから始める水の話」石川薫、中村康明著
「安全な水」といえば、多くの日本人は「衛生的な水」のことだと思うだろう。しかし世界に山積する水問題はそればかりではないと本書は訴える。
「誰も置き去りにされない」をスローガンとするSDGs。その目標6には「安全な水とトイレを世界中に」と掲げられている。SDGs以前、2000年秋の国連特別総会で採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)にも、不適切な水と衛生に対する改善が掲げられていた。これにより成果を上げた国や分野もあったものの、取り残されたのがアフリカの多くの国々と、そこで暮らす子供と女性たちだった。
日本のように自宅に蛇口があり、それをひねれば安全な水が出るという国はそう多くない。今なお人類の10人に1人は自宅から往復30分以内で清潔な水を入手できない環境にあり、その数は7億8500万人にものぼる。しかもそのうちの1億4400万人は、泥や細菌、糞尿に汚染された池などの地表水をそのまま飲んでいる。
さらに根が深い問題は、それらの国々の水くみ担当はおおむね女性、とくに少女だということだ。とくにアフリカの国々では、最寄りの水場までの平均距離はおよそ3キロ。少女たちは往復2時間かけて1日3往復、つまり6時間を汚染された水をくむために費やしていることになる。当然、学校に行く時間的余裕はなく、教育の機会は奪われる。さらに、家から遠く離れた水場までの道のりでは、けがや野生動物との遭遇といった危険と隣り合わせであるばかりか、レイプ被害に遭うという事態も少なくないという。
本書では、アフリカで水質浄化やインフラ整備に取り組む日本の企業やNGOの活動も紹介。「安全な水」に対する格差の問題にも気づかされる。
(勁草書房 2640円)