「世界のSDGsスマートシティ」エリン・グリフィス著 樋口健二郎訳
国連リポート「世界都市化予測」によれば、世界の都市人口は70年前の約8億人から42億人にまで増加。人類は歴史の大部分で地方の小規模なコミュニティーに点在して生活してきたが、ここ数十年の急激な都市化により地方に住む人の数を都市に住む人の数が上回る事態となっている。こうなると課題となるのが、都市のインフラやエネルギー、自然などについて、持続可能な環境の維持が困難になるということである。
本書では、世界中の優れた建築家たちが取り組む40以上の未来都市計画について解説。持続可能な「スマートシティ」の全貌を、オールカラーの写真やCGで紹介している。
マレーシアのペナン州で進んでいるのが、住民と自然が共存する「バイオダイバーシティ」計画だ。ブドウの房のように連なった人工島に市街地を建設し、街同士を“緑の回廊”でつなぐ。回廊には野生生物の移動経路を確保するための森林や水域が含まれ、在来種の生息を支える。開発区域は1800ヘクタールを超え、建物は竹や現地の樹木など低炭素素材を使用して建設される。水路や空路などの輸送ネットワークも構築され、安全でクリーンな持続可能都市を目指すという。
既存の都市に緑地を取り入れることで持続可能性を高める計画も進んでいる。パリのセーヌ川沿いのプランを手掛けるのは、隈研吾氏だ。“パリの緑の肺”と呼ばれる建物は、多数の三角形の木材と草木で構成され、それらがバルコニーやテラスを形成する。まるで自然による浸食で出来上がったような複雑な立面が、都市環境に自然の景観を加えている。
砂漠や水上、深海、そして火星を想定した、さらなる未来の都市プランも紹介されている。
(原書房 4180円)