「シャーロック・ホームズが見た世界」田中喜芳著
「シャーロック・ホームズが見た世界」田中喜芳著
英国の作家アーサー・コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズシリーズの長短あわせ全60編は、今なお世界中の人々に読み継がれている。その第1作「緋色の習作」(または「緋色の研究」)が発表されたのは1887年。ホームズが活躍したこの時代は、写真絵はがきが飛躍的に発展した時代と重なる。
本書は、ホームズ作品に登場する場所や施設を当時の古い写真絵はがきで紹介し、ホームズが「見た」であろう景色を読者に体感させてくれるビジュアルガイド。
「緋色の習作」には、助手のワトソンは、1878年にロンドン大学で医学博士の学位を取得後、軍医となるため「ネットリー陸軍病院」で訓練を受けたと記されている。
そんな作品の一節を紹介しながら、オックスフォード、ケンブリッジに次ぐ第3の大学として誕生したロンドン大学の前身「ユニヴァーシティ・コレッジ」や、ナイチンゲールがその設立に大きく貢献したというネットリー陸軍病院(正式名称ロイヤル・ヴィクトリア陸軍病院)の絵はがきに添え、建物や作品にまつわるエピソードを記す。
同じく「四つのサイン」という作品で警察艇に乗り込んだホームズらがテムズ川を進みながら見たセント・ポール大聖堂やロンドン塔など、今は観光名所となっているスポットの往時の姿から、「シャーロックホームズの冒険」の「青いガーネット」に出てくるコヴェント・ガーデン市場や、「ボヘミアの醜聞」でボヘミア王がフォン・クラム伯爵の名で宿泊したランガム・ホテルなど、今ではお目にかかれなくなった場所や改装で姿が変わってしまった建物まで。
ホームズが生きたヴィクトリア時代のイギリスの空気が満ちた絵はがきを手掛かりに、作品世界を案内してくれる副読本。
(言視舎 2640円)