「猫を描く」 多胡吉郎著
古代エジプト以来、人のかたわらにはいつも猫がいた。ところが、ダビンチやラファエロ、ミケランジェロなど、西洋絵画の巨匠たちの作品には猫が登場しない。
印象派以前の西洋の古典絵画に猫を描いた作品がないのはなぜか。そんな疑問をきっかけに、絵画のなかの猫についてつづったアートエッセー。
調べると、イタリアの画家ドメニコ・ギルランダイオ(ミケランジェロの最初の師匠)のフレスコ画「最後の晩餐」の中に猫がいた。「マハ」で知られるスペインの画家・ゴヤにもそのものずばり「猫の喧嘩」というタイトルの作品があった。
しかし、これらの中で猫は好ましいイメージでは描かれていない。前者では今後の悲劇を見通しているかのようにユダの背後に描かれ、後者は欲望のままに争う醜悪さを描いている。聖書や神話で、猫は犬と異なり、怠惰、好色など邪悪さの象徴とされているのが原因のようだ。
よこしまなイメージではない猫の絵を探すと、ルーベンスの「受胎告知」に描かれた猫を見つける。さらに、ほかの画家が描いた「受胎告知」の絵にも猫が描かれていた。
宗教画の受胎告知に、まがまがしいとされる猫がなぜ描かれているのか。聖書には載っていないが、キリストが生まれたとき、同じ厩で猫も出産したという俗説が語り継がれてきた。この民間伝承がルネサンスを経て猫の復権につながったようだ。
ほかにも英国の人気猫画家ルイス・ウェインや、歌川国芳の猫浮世絵、18世紀の朝鮮の画家ピョン・サンビョク(卞相璧)、そして巨匠ルノワールなど。猫が登場する作品を紹介しながら画家と猫、作品と猫の関係を読み解く。
画家たちの猫愛が伝わる90以上の名画を、ミステリーのように謎解きしていくお薦めアート本。 (現代書館 2640円)