「ビジュアル版 昭和のくらしと道具図鑑」小泉和子編著
1951(昭和26)年に建てられた東京・大田区の「旧小泉家住宅」は、戦後の庶民生活の好例として国の登録有形文化財に指定され、現在、「昭和のくらし博物館」として公開されている。
この旧小泉家住宅の建物と家財道具を紹介しながら、昭和20年代から経済成長で人々の日常が激変するまでの、往時の日本人の暮らしぶりを伝えるビジュアル図鑑。
住宅は、建築技師として都庁に勤めていた建て主の小泉孝氏が自ら設計。木造2階建てで、屋根はセメント瓦(現在は日本瓦ぶき)、外壁は押縁下見板張(おしぶちしたみいたばり)で、間取りは1階に書斎と応接間を兼ねた玄関、便所、4畳半の茶の間と台所、6畳の座敷、2階は4畳半が2室。居間と台所は、1955年建築の公団住宅に先駆け、ワンルームのダイニングキッチンとなっている。
当初はガスも水道も引いておらず、風呂は銭湯、かまどで煮炊きをして、水は隣の地主さんの井戸からくませてもらったという。この家に夫婦と娘4人、そして2階には下宿人2人を住まわせ、8人で暮らしていたそうだ。
板の代わりにベニヤ板を用い、継ぎ目に割竹(わりだけ)を取り付けて数寄屋風にした和室の天井や、玄関の上がり框(かまち)の段差を利用した収納など、建物の随所に工夫が施されている。
また、引き戸の上部につけられた来客を知らせる玄関ベルや、ダイヤル式電話機(黒電話)、ゼンマイ式の柱時計、ちゃぶ台、台所のハエ取りリボン、さらにはたきや茶殻を用いた和室の掃除の仕方から、病気の際の看病や自宅での出産まで。
今では忘れられてしまった暮らしの道具やその使い方、そして衣食住全般にわたる生活の知恵を写真とイラストで紹介。
現在ほど快適ではなかったけれど、持続可能に限りなく近かった昭和の暮らしに学ぶこと大。
(河出書房新社 4290円)