様々な視点で読む歴史文庫本特集
「脱税の世界史」大村大次郎著
かつての足跡をたどることで、新しい視点が見えてくることがある。斬新な切り口で歴史を見直してみたら、閉塞感あふれる現代へのヒントが見つかるかもしれない。今回は、そんな斬新かつ重厚な歴史を掘り下げた文庫本を4冊紹介したい。
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「脱税の世界史」大村大次郎著
大国が衰退するとき必ず税金が関係している。本書は、元国税調査官の著者が脱税という視点から世界史の動きをたどったもの。
取り上げているのは、古代ローマ帝国の税制から、関税逃れで始まった大航海時代、脱税業者が起こした米国独立戦争、ヒトラーの逃税術と徴税術、タックスヘイブンとパナマ文書、GAFAの逃税スキームなど。
国家崩壊の典型的な道筋としては、官僚が腐敗して税収が減ったために増税し民が疲弊するパターンを紹介している。相次ぐ増税で農民が農地を放棄したために堤防補修工事もまかなえなくなり洪水の増加で崩壊した古代エジプト。消費税を拡大して民が疲弊して急速に衰退したスペインなどがその例だ。
著者は今の日本が同じ道をたどっていることに危機感を覚え、消費税中心の税システムからの転換を訴えている。
(宝島社 880円)
「移民の歴史」クリスティアーネ・ハルツィヒほか著 大井由紀訳
「移民の歴史」クリスティアーネ・ハルツィヒほか著 大井由紀訳
世界中に存在しているにもかかわらず、移民は長年限定的にしか研究されてこなかった。その多くが受け入れ側への同化という視点で取り上げられ、工業化や都市化に伴う移動や男性の移動にばかり重点が置かれていたのだ。本書は、そうした偏りを修正しつつ人類出現以来の越境移動の歴史を包括的に解説した書だ。
人は自分や家族を養えない、生きる意味を見いだせない、さらに危険・不公平・不条理などの条件がそろうと住んでいた地を離れて新天地を探し求める。本書では、ジェンダーや人種などの視点なども取り入れながら人類史から見た人口移動の歴史、移民と文化の相互作用など複雑化した越境移動の状況を分析。
戦争や環境破壊に起因する難民の増加や労働力確保のための移民受け入れなどが話題となる今、読んでおきたい一冊だ。
(筑摩書房 1430円)
「世界をつくった6つの革命の物語」スティーブン・ジョンソン著 大田直子訳
「世界をつくった6つの革命の物語」スティーブン・ジョンソン著 大田直子訳
現代に当たり前に存在するモノは、遠い昔に思いもしなかったひとつのイノベーションから始まっている。本書は、世界をつくった「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」の6つの物語を提示。ひとつの出来事から次々と新しい世界の扉を開いていく人類の進化をたどる。
たとえば、「ガラス」は、砂漠がつくり上げた二酸化ケイ素から成る物質の発見から始まった。これがツタンカーメンの装飾品に使われ、透明ガラスへと進化し、眼鏡、鏡、顕微鏡、望遠鏡、レンズ、グラスファイバー、光ファイバー、スマホへとつながっていく。ガラスから鏡をつくらなければ自画像は描かれず、望遠鏡がなければガリレオが地動説を唱えることもなかった。
イノベーションは物質的な変化にとどまらず、社会に大きな影響を及ぼすことがわかってくる。
(朝日新聞出版 1210円)
「サピエンス全史(上)」ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳
「サピエンス全史(上)」ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳
ホモ・サピエンスが文明を築き、地球上で繁栄したのはなぜか。本書は、ホモ・サピエンスの誕生から現在に至るまでの歴史を包括的に捉えた壮大な物語だ。
ホモ・サピエンスは今や唯一の人類種であることに慣れてしまったが、かつてホモ・ソロエンシス、ホモ・デニソワ、ネアンデルタール人が存在していたこともわかっている。彼らが絶滅してホモ・サピエンスが残ったのには理由があった。
鍵となるのは「虚構」だ。国家や国民、企業や法律、人権や平等などの言葉は、個が集団で協力することを可能にする強力な虚構だった。本書では、虚構を可能にした脳の発達を「認知革命」と呼ぶ。さらに農業革命を経て集団はより大きく複雑化して統一化へと進んでいる。
人類が今後どう生き延びるのか、大局的に考えてみたくなる。
(河出書房新社 1089円)