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「経済安全保障とは何か」国際文化会館地経学研究所著

 国際情勢がグローバル化時代から大きく変化し、「経済安保」が焦点になっている。



「経済安全保障とは何か」国際文化会館地経学研究所著

 経済安全保障とは多国間の経済的依存関係が、外交の安定や軍事的懸念の抑止につながることをいう。冷戦時代はイデオロギーによる地域ブロック化のもとで国際的な経済関係もすべて定義されていた。いまは要になるのが政治から経済へシフトしたのだ。本書は親米派の民間シンクタンクが各界の専門家をあつめた共同研究を書籍化したもの。本書によると経済安保の考え方は、国際政治学の分野では近年になって初めて重視されたという。しかし、日本は「専守防衛」を標榜する自衛隊という「軽武装」に軍事的手段を抑え、もっぱら経済的手段で国益を追求する道を走ってきた。この点でみると日本は経済安保で世界に先駆けた国ということになる。

 問題は日本政府がどこまで事態や今後の見通しを正確につかんでいるかだろう。バブル破綻以後の低迷経済を立て直す経済政策がことごとく空振りする一方、防衛費増額だけは無理にも進めてきたが、果たしてその間にしっかりした設計理念はあるのか。

 合計11人もの執筆者ゆえ重複も多いが、細部を読みこめばおのずと答えも出そうだ。

(東洋経済新報社 2640円)

「日本企業のための経済安全保障」布施哲著

「日本企業のための経済安全保障」布施哲著

 今年5月に施行された経済安全保障推進法。この法律は肝心の「経済安保とは何か」の定義をしていない。その代わりに「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」がキーワードになっているという。前者は経済的基盤を強化することで他国に過度に依存しないですむこと。後者は先端技術で世界に先駆けることによって、その技術的独自性で国際社会から必要とされることだ。

 しかし本書は、経済と安全保障を両立させることに違和感を持つビジネスパーソンが多いという。経済では国籍の違いを超えてデータやノウハウを共有し、ウィンウィンの関係を築くのが大事。一方、安保の分野では相手に優位を取らせず、その力を削ごうとする。要はマウントの取り合いだ。

 その両立のためには、コストや効率性だけで物事を判断しないことが大事。米中は互いに相手を排除できないほど経済的に相互依存しているが、それでも安保上の対立構図がますます強まっているのだ。経済的相互依存は必ずしも戦争を抑止しないのだ。

 著者はテレビ朝日の記者から防衛大学校の修士課程に進んだ安全保障論の専門家だ。

(PHP研究所 1100円)

「日本の食料安全保障と国際環境」八木浩平ほか編著

「日本の食料安全保障と国際環境」八木浩平ほか編著

 国家の自立は、仮に国際的に国が孤立したとしても国民が飢えずにすむこと。つまり食料の自給が前提だ。ところが日本の食料自給率は低いことで有名。関東農政局によればカナダ266%、豪州200%、米132%、仏125%、独86%に対して日本は38%とお粗末だ。

 本書はグローバル化時代の食料問題を専門とする研究者が集まった論集。「国・企業・消費者の視点から」という副題から、単に国政レベルの農政問題だけでなく、低い自給率を補完する手段として、いかに食料輸入を安定的に継続するかといった課題にも目配りされているのがわかる。

 また、日本産農作物が輸出先の国際舞台でどう評価されるかにも注目。同じ中国・上海の消費者でも、和牛の霜降り肉と赤身肉を評価する層は異なるという。WAGYUが欧米でダブつき始めたという最近のニュースもある。嗜好の変化も食料安保の主要因なのだ。

(筑波書房 4180円)

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