かんずりは味のしっかりしたものに最適 食欲増進と消化促進作用が
発酵によってうま味や甘味が引き出され、味覚の多角形が円に近づく
かんずりとは新潟県妙高特産の辛味調味料。かなりの手間暇をかけて作られる。
まず、地元で収穫された肉厚の唐辛子を秋に塩漬けする。大寒の頃、雪の上にまいてさらし、アクと塩分を抜く。井戸水で洗い、黄柚子、米麹、塩とまぜ合わせて3年以上の熟成期間に入る。途中、手返し(かきまぜ)や樽の位置変えなどをして発酵を促進する。仕込みの終わったかんずりはその年の冬、野外に出して寒ざらしを行う。こうすると一層味が引き締まる。これを瓶詰めして出荷する。長いものでは6年熟成したものもあるという。松田さんの本によれば「ほのかな酸味と旨味を含んだまろやかな辛味」。油ものとの相性が良いのが特徴だ。
この季節にぴったり。なんだか聞くだけで、お酒が欲しくなる。俗に、熟成によって塩や辛味のカドがとれる、という言い方があるが、まさにかんずりがそうだ。最初は塩分や辛味がとんがって感じられるが、発酵のプロセスを経るにつれ、タンパク質やデンプンが分解され、アミノ酸のうま味や糖質の甘味が顕在化してくる。そうすると味覚の多角形が円に近づき、バランスの良さ、コク、奥行きが出てくるというわけ。地域の食材と気候風土を巧みに利用した日本食文化の華である。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
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