舌がんは「舌を切らない手術」で治す! 治療の中心は切除だが…
若い世代でも発症するのが舌がんだ。20~30代の患者もいる。治療の中心は手術で、切除の程度によっては、「話す」「食べる」「味わう」といった舌の機能が損なわれることがある。
舌がんといえば、2019年にステージ4の舌がんを公表した歌手の堀ちえみさんを思い浮かべる人もいるかもしれない。手術で舌の6割近くを切除したという。
一方、舌がんの治療には「舌を切らない」という選択肢もある。30年以上前から「選択的動注併用放射線療法」を行っているのが不破信和医師(現在、「中部国際医療センター陽子線がん治療センター」施設長)だ。
30代の料理人は2018年にステージ4の舌がんと診断され、手術では全摘に近くなる可能性があると言われた。インターネットで不破医師を知り、選択的動注併用放射線療法を受けた。現在再発はなく、味覚はそのままに、料理人としての仕事を継続している。
不破医師が言う。
「抗がん剤は通常、経口または静脈から投与します。しかしこの方法では舌がんの場合、抗がん剤の感受性(効き目)が低い。そこで抗がん剤をカテーテルを通して動脈から直接投与する『動注療法』を行います。進行舌がんでは転移もあるため、選択的動注併用放射線療法ではまず全身への抗がん剤、次に放射線、また抗がん剤、そして放射線の順に行い、最後の放射線の時に抗がん剤の動注療法を併用します」
動注療法のメリットは、がんに直接投与するため抗がん剤の濃度を高くでき、抗がん剤の総量を少なくできること。
■浅側頭動脈から挿入
動注療法自体は古くから行われているが、不破医師が行う方法には3つの大きな特徴がある。
「動注療法の大半は、太ももの大腿動脈からカテーテルを挿入し目的動脈に到達させます。しかし舌がんの場合、この方法では脳に流れる太い血管を通るため脳梗塞を起こすリスクが2~3%程度ある。そこで私は耳の前の浅側頭動脈からカテーテルを挿入します。脳梗塞のリスクは非常に低くなります」(不破医師=以下同)
浅側頭動脈からカテーテルを挿入する方法の問題点は、選択できる動脈がひとつだけということ。進行がんでは複数の動脈から栄養されていることが多く、そうなると別のアプローチとなり、治療効果にばらつきが出る。