中高年の無理な脂質カットは体を悪くする…メタボ悪玉論で“ヤリ玉”に挙がる脂肪の正しい知識
70歳以上の男性は10%が低栄養状態に
医師でジャーナリストの富家孝氏は、かつて新日本プロレスのコミッションドクターのほか、日本女子体育大助教授だった経験もあり、スポーツ医学に詳しい。富家氏に脂肪の意外な効用について詳しく聞いた。
「適正な体脂肪率は、男性は10%以上20%未満、女性は20%以上30%未満です。それを超えると肥満ですが、最近は体重(キロ)を身長(メートル)で2回割ることで求められるBMI(体格指数)で肥満度を判定することが一般的。18.5以上25未満が標準で、25以上が肥満です。標準の中でも、その真ん中くらいの22が適正とされます。杓子定規な医師は、目の前の肥満気味な患者に『BMI25未満、できれば22を目指しましょう』と指導するでしょうが、太った方がBMI22を目指すのは至難の業。それを目標に頑張った結果、体脂肪率を下げるのは危険です」
なぜか。脂肪の摂取を巡る食事の変化が強く影響するという。
「中高年が脂肪を減らそうとして、その材料である肉や魚などのタンパク質をカットしようとすると、タンパク質不足を招きやすい。実は、脂肪を目の敵にしてベジタリアンのような食生活に切り替えた結果、低栄養状態に陥っている高齢者が少なくないのです」
ちょっと古いデータだが、東京都老人総合研究所は2002年に健診を受けた70歳以上の高齢者1758人を対象に栄養状態などを調査。低栄養状態の割合は、男性9.5%、女性5.2%で、年齢が上がるほど割合が高くなる傾向があった。低栄養状態のグループでは、総コレステロール値が有意に低く、逆に低コレステロール血症や貧血の割合が有意に高かったという。
飽食の日本において、10人に1人の男性が低栄養状態とは意外だろう。しかし、これが現実なのだ。
「医師に『脂肪を減らしましょう』『コレステロール値を下げたほうがいいですよ』などと説明された患者さんの中には、その意識が強過ぎるあまり、肉や魚を減らし過ぎているのです。そういう人はエネルギー源が不足しがちですから、力が入りにくく、疲れやすく、だるい。貧血だと、立ちくらみやめまい、ふらつき、頭痛なども起こりやすくなります。これらの症状は年齢的に誰しも起こりやすいので、ちょっとした不調でも『年のせいかな』と放置したり、様子を見たりして低栄養状態が見過ごされて、状況が改善されにくいのです」
鉄分は、赤身肉やレバー、マグロ、カツオなどのほか、小松菜や水菜、ヒジキ、納豆、枝豆にもよく含まれる。肉や魚の鉄分は吸収されやすい一方、野菜や海藻、豆類の鉄分はビタミンCやクエン酸、タンパク質などと一緒に食べないと吸収が悪い。そうすると、肉や魚を控えて、野菜だけの煮物などを中心とした食事で、脱脂肪・脱メタボを目指したつもりが、結果としてタンパク質と同時に鉄分の不足も招いているのだ。