「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」樋野興夫著
順天堂大学医学部で腫瘍学・病理学の教授を務めるかたわら、「がん哲学外来」の創始者としてがん患者と関わってきた著者が、死を意識したときに人はどう生きるべきかを説いた一冊。がんになったことで生きる意味を見失った人やうつ状態になった人の硬直した心を、温かく生き生きとしたものに変える「言葉の処方箋」が紹介されている。
誰もが突然余命を告げられれば、少なからずショックを受ける。しかし人間いつか死ぬのは確実であり、余命は確率論に過ぎない。ならば曖昧な余命を思い煩うことはない。病気を機に人生の優先順位や自身の使命に気づき、自分のためでなく自分の外側にあるもののために生きてはどうか、と著者は提案する。
新渡戸稲造「武士道」や内村鑑三の「後世への最大遺物」などの愛読書も紹介。良い師や良い友に必ずしも恵まれなくても、どんなときにも本からは学ぶことができると読書の効能も説く。決して特別ではない言葉が優しく心に響く。(幻冬舎 1100円+税)