「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介著
又吉直樹の「火花」とともに第153回芥川賞を受賞した作品。87歳になる要介護の祖父と、再就職活動中の28歳の孫が、閉塞状況のなかで心理的攻防戦を展開する。テーマは重いが、クスッと笑ってしまうようなおかしさも漂う。
東京近郊の団地で、無職の健斗と、その母と、祖父の3人が暮らしている。祖父はグズグズと弱音を吐き、「もうじいちゃんは死んだらいい」が口癖。一家の唯一の働き手である母は、そんな実父の言動に苛立つ。
何の希望もない老人の日常といや応なく向き合ううちに、健斗はある計画を思いつく。祖父の「死にたい」は本心だ。孫として、苦痛も恐怖もない尊厳死の手助けをしてやるべきではないか。そして、計画を実行に移す。祖父の一挙手一投足に優しく手を差し伸べ、筋力も精神力も萎えさせ、穏やかな死に向かわせる作戦だ。
同時に健斗自身も変わり始める。自らに厳しいトレーニングを課し、一度は社会から落ちこぼれた自分の肉体と精神の再構築にとりかかる。しかし、祖父の願いをかなえる計画の実現は、簡単ではなかった……。
老いと若さ、世代間の利害、介護と被介護、延命と尊厳死。家族小説の形をとりながら、現代の問題に鋭く斬り込んでいる。
(文藝春秋 1200円+税)