「牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二)」山本一力著
高知(土佐)というと酒好きというイメージがある。実際、飲酒費用では47都道府県1位、アルコール消費量2位と、イメージ通りの数字が上がっている。そうしたお国柄だけに亀泉、久礼、酔鯨といった銘酒が多く造られている。慶長8(1603)年創業の司牡丹もそのひとつ。本書は、銘酒司牡丹を江戸に広めようとする裏稼業4人衆の活躍を描いたもの。
【あらすじ】元禄8(1695)年、木材の買い付けに土佐を訪れていたヤマ師の雄之助は、嵐に遭遇した漁村で船の引き上げを手伝った。そのお礼に宴会で酒を振る舞われたのだが、酒の甘さに閉口していた。それを見た長老が秘蔵の酒を持ってこさせた。杉樽から注がれたその酒を飲むと見事な辛口で、酒のうまさと杉の香りが口に広がった。
酒の名は司牡丹。初代土佐藩主山内一豊に従って遠江国掛川から移ってきた酒蔵が佐川村で醸造していたものだ。この酒に惚れ込んだ雄之助は江戸に戻ると、裏稼業でよろず頼まれごとを引き受ける息子の蔵秀、絵師の雅乃、文師の辰次郎、飾り行灯師の宗佑の4人組に、司牡丹とその格好のつまみになる鰹の塩辛を江戸に広めるように持ちかける。
蔵秀たちは早速、飛ぶ鳥を落とす勢いの紀伊国屋文左衛門に接触し、老中格の柳沢吉保の協力も取り付ける。大物2人を後ろ盾に土佐へ向かう4人だが、蔵秀らに遺恨を抱く油問屋の大田屋は、邪魔立てをすべくスパイを放つ……。
【読みどころ】蔵秀らが稼業としているのは広目、つまり広告だ。巨大な行灯に「油照りに冷や乃司牡丹」という文字を浮かび上がらせ、それを船に乗せて川を下るという斬新な宣伝を考え出す。宣伝を駆使してウイスキーを広めたサントリーの先駆ともいえよう。 <石>
(講談社 790円+税)