「美酒処ほろよい亭日本酒小説アンソロジー」前田珠子・桑原水菜ほか著
居酒屋で日本酒を飲むというのは、昭和の時代であればサラリーマンのおじさんと相場が決まっていたものだが、近年では「おちょこ女子」と呼ばれる日本酒好きの女性が増え、女子だけでテーブルを囲む居酒屋も珍しくない。本書は女性作家6人による短編小説アンソロジーで、主人公もいずれも女性という新機軸の日本酒小説集。
【あらすじ】前田珠子の「櫻姫は清酒がお好き」は、日本酒が大好物の桜の精の話。漫画家になる夢が挫折し、「猫の又三郎」シリーズのグッズにはまっている加津子。限定グッズに何度も応募するも結果すべて惨敗。そんなとき地元に「奇跡の桜」という願い事をかなえてくれる桜があることを知る。
その桜の精「櫻姫」は日本酒好きで加津子がとっておきの日本酒を持っていくと、それまで当たらなかった限定グッズがうそのように当たり始める。ところがある日台風で奇跡の桜が折れてしまう……。
山本瑤の「真夜中のおでんと迷い猫」の主人公は、家具職人の相馬のもとに転がり込んできた椿。ひょんなことから相馬の居候になった椿は、家事や料理を手伝いながら職探しをしていたが、仲間の誕生日に用意されていた金箔入りの純米大吟醸酒を一人で盗み飲みしてしまう。それを見つけた相馬が事情を聴くと……。
響野夏菜の「父の日」は、毎月定期的に娘に会いに現れる父のために各地の銘酒を用意する一花だが、何を出しても不満そうな父。一花は意地になって、なんとか父に「うまい」といわせようと躍起になるのだが、実は……。
【読みどころ】登場する日本酒も月の桂(伏見)、ほろほろに(佐賀)、越乃景虎(新潟)、神亀(埼玉)……となかなかの品揃えで、ほろ酔い感を満喫できる。 <石>
(集英社 640円+税)