「家を失う人々」マシュー・デスモンド著 栗木さつき訳

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「家を失う人々」マシュー・デスモンド著 栗木さつき訳

 米国では、貧困の末に家を追い出され更に危険な生活に落ちていく人々が増えている。著者は、貧困問題を研究するなか、家賃が払えず立ち退きさせられる人々の存在に行きついた。本書は、彼らの生活を記録する目的で彼らが住むトレーラーパークとスラムに実際に著者も住み、そこで見聞きしたことを忠実に再現したノンフィクション。ピュリツァー賞も受賞している。

 本書では麻薬の売人がいる危険地帯で子育てをせざるをえないシングルマザー、スラムの物件を購入し面倒事を一手に引き受けることで「スラムの起業家」と呼ばれるようになった家主らが登場する。

 収入の70%以上を家賃に充て、公共料金を支払うと生活費がほとんど残らない人たちは、家賃滞納を繰り返したあげく強制退去になり、生活の基盤と希望を失う。強制執行と差し押さえを専門に扱う保安官が存在し、強制退去者のリストを不動産業者が売り買いする実態など、貧困層をターゲットにするビジネスが存在する米国は、果たして豊かな国なのか。

 住まいを原因とする貧困の拡大が止まらない現実をリアルな筆致で突きつけてくる。

(海と月社 2860円)

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