「グリフィスの傷」千早茜著

公開日: 更新日:

「グリフィスの傷」千早茜著

 傷を題材にした10編の短編集。冒頭の「竜舌蘭」はさまざまな苦情に対応するデパートの受付係の“私”が主人公。

 私は高校時代、同級生から無視をされるといういじめを受けた過去を持つ。黙殺され、私のまわりだけが無音だった。

 ある日、私が遅刻すれすれで教室に飛び込むと、全員が私を見ていた。私の片脚から血が滴りおちていたのだ。あれだけ徹底して無視しておきながら、たかが流血くらいで私を見る。私は呆れた。

 私の傷は、通学途中にある民家の多肉植物「竜舌蘭」の棘に触れ、皮膚を切り裂いたことが原因だった。

 だが、私はうれしかったのだ。私の痛みを暴力的なまでにはっきり示してくれたことに……。

 ほかに、同じマンションに住む犬嫌いのひきつれ顔の男性に自分の心の傷を見破られた女性が取った行動を描く「この世のすべての」、ガラスについた無数の傷を意味する表題作の「グリフィスの傷」では、かつてネットに誹謗中傷を書き込んだことのあるリストカットを繰り返す元アイドルと再会し、傷の理由を聞かされる私の物語など。

 今は治った体の傷が語るのは、目には見えない心の傷である。ほんの出来心が人を傷つけ人生を狂わせること、そして癒えるとは何かをやわらかな筆致で読者に問いかける。 (集英社 1760円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース