「ルポ年金官僚」和田泰明著
「ルポ年金官僚」和田泰明著
1942年に労働者年金保険法として始まった日本の公的年金は、厚生年金保険法と改称された後、59年には自営業者を対象とする国民年金法も成立して、国民皆年金制度がスタートした。そのたたき台をつくるために大きな役割を果たしたのが、官僚人生の多くを年金局で過ごす年金官僚と呼ばれる者たちだ。本作は、当初の年金制度がどのような事情で変遷を遂げてきたのか、取材を通して得た年金官僚の証言からその歴史をひもといた書だ。
年金制度は毎度政争の具として使われてきた。たとえば「100年安心」という言葉が独り歩きした年金改革案。一度改革すれば100年間安心のイメージを世間に流布したが、その実態は2100年までの年金の給付水準が現役世代の55%を下回らないよう、今まで死守してきた積立金を取り崩すと同時に年金額を減らしていくことで制度を維持することだった。政治家も官僚も不正確な表現なのは百も承知だったが、人口減と高齢化の帳尻合わせをせざるを得ない状況と、選挙で落選したくない政治家の利害が一致した。
年金制度を巡る複雑な攻防戦が見えてくる。
(東洋経済新報社 2420円)