市川由紀乃さん 初座長の「島倉千代子物語」で一体化を…
今年3.に名古屋・御園座の五木ひろしの座長公演「雨あがる」に特別出演し、初めてお芝居にチャレンジした市川由紀乃さん。五木と「いつか座長公演ができたらいいね」と話していたら、早速、7月に大阪の新歌舞伎座で初座長公演が決まった。大きな夢があっけなく実現してしまったわけだが……。
「まさか私が? という思いでした。座長ができる人は限られているわけですから、その中に入れていただいた重圧を感じました」
演目は今年が七回忌だった島倉千代子を演じる「島倉千代子物語」。死後も語り継がれる大物の物語である。
「心の中で生き続けている方を演じるプレッシャーはすごかったです。口上から始まる演出で、出演者みんなに『座長、いってらっしゃい』と送り出されるたびに『私、座長なんだ!』ってハッとして。関係者から届いた100本の胡蝶蘭がズラリと並ぶ中を通って舞台に出ていくのですが、プレッシャーのあまり『座長』とか言わないでくださいと言っていたこともありました。そんな私を見た諸先輩方から『みんなを引っ張っていこうなんて思っちゃダメだ。みんなから力をもらって一緒につくりあげるという思いで臨むように』とアドバイスをいただきました」
日本を代表する歌手のひとりであり、多額の借金を抱えたり、スキャンダルもいろいろあった島倉だが、演じていくうちに一体化するような瞬間があったそうだ。
「『だますより、だまされる方が私はいい』というセリフがありました。人として強さを持っているからこそ、菩薩のような優しさが生まれるんだなって思いました。島倉さんのいろんな苦労や悲しみを演じるにつれて、徐々に自分の中で島倉さんの思いが感じられるようになっていった。一心同体になって声をあげて泣きました」
迫真の演技は好評だった。
「お芝居の最後は島倉さんのほほ笑んだ写真がバックのスクリーンに大きく映し出され観客と一緒に大きな拍手で終わるのですが、毎回こらえきれずに泣いちゃいました」
座長公演には五木も訪れ、「後半は市川由紀乃と島倉さんがかぶる瞬間があって2回涙が出た」と言ってくれた。
「モノマネになってはいけないと思う一方で、イメージを崩してはいけない。その点に気を配りました。あとは他の出演者のみなさんからアドバイスをいただいて、演技に集中して。今でも島倉さんの後援会があって『ありがとう』と言っていただき、ホッとしました」