「流氷の果て」一雫ライオン著
「流氷の果て」一雫ライオン著
時はバブルに沸く1985年。札幌市内から知床半島ウトロへ向かっていた「北斗流氷号バスツアー」が、吹雪の中、転落事故を起こした。乗客48人のうち生存者は少年少女を含む7人。その後の調査で事故の原因は亡くなった運転手の飲酒だとされ、やがて事故は世間から忘れ去られていった。
そして1999年12月の早朝、新宿の歩道橋で男の首吊り遺体が発見された。時を同じくして、運輸省の特別顧問銃撃事件が起きる。
定年退職を間近に控えた新宿警察署の真宮刑事は若手刑事の香下と組み、捜査に乗り出す。実は真宮は首吊り自殺の現場で歩道橋を挟んで立っていた2人の男女がなぜか気になっていたのだ。後に真宮は、青年は介護福祉事業を立ち上げた楠木保、女性はラジオのDJユーリで、2人は共にバス事故の生存者だったことを知る。
平成と昭和とを行き来しながら事件の真相へと読者を誘うミステリー仕立ての人間ドラマ。バブル経済、権力と金、地方、社会的弱者--。情念が詰まった昭和の残骸に巻き込まれ、すべてを失った少年たちが加害者にならざるを得なかった理由に、事件を追う真宮同様やるせなさが募る。衝撃のラストまで一気読み必至だ。 (講談社 2310円)