映画「戦争と女の顔」のプロデューサー「プーチンは看過できないのでしょう。それが史実でも」

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「侵攻に反対という人が映画業界にも大勢います。『排除』なんかに屈しませんよ」

 ウクライナ侵攻後、ロシア防衛相から「あなたの作品を現代文化から排除する」と書簡で通告されたウクライナ出身の映画プロデューサー、アレクサンドル・ロドニャンスキー氏(61)。デモを禁じ、報道規制し、戦争犯罪に突き進むプーチン政権がエンタメ業界にも脅しと迫害をかけている証左だが、屈するつもりはない。

「うだつの上がらないKGB諜報員だったウラジーミル・プーチンがいかに権力を得て、現代社会を基盤から揺るがす暴挙に出るに至ったか。それをつまびらかにするドラマを準備しています。『クレムリンの男たち』という気鋭のジャーナリストによるベストセラーの映画化権を得て、元側近らの証言により、クレムリンの壁の向こうでの権謀術数、プーチンの内面の変化を世に知らしめたい。『ハウス・オブ・カード』のロシア版になると思います」

 ──プーチンはなぜ、ウクライナ侵攻に出たのでしょう。そもそもプーチンとは何者なのか。

「今回の侵攻は、プーチンにとって超大国だった往時を取り戻すための悲願、ロシア帝国奪還の野望なのだと思います。プーチンは、精神的には、第2次世界大戦直後の1945年をいまだに生きているようなもの。皮肉にも、第2次世界大戦で倒すべき宿敵だったナチスの、そのスローガンを踏襲し、同じことをやっているのですから、どうしようもありません」

 ──あまたの独裁者が現れては、最後は破滅という繰り返しが歴史にはありますが、プーチンもこれに続くのでしょうか。

「そうでなくては困ります。ウクライナで1700万人以上が生活を奪われ、うち1000万人が国を追われたというだけではありません。これを看過したら世界は第2次世界大戦前に逆戻り、民主主義も何も、現代文明は屋台骨から揺らぎ、崩壊してしまいます。基本的人権の尊重という理念すらないがしろにされ、現代人のアイデンティティーの危機にあるのですから」

 ──対ロシア、というだけではないと。

「そう。米国でも、中絶を女性の権利と認める憲法判断を連邦高裁が覆しましたよね。世界的に時計が逆回りしているように見えます。自分のことばかりでお互いのこと、考え方の違うことをおもんぱかったり、共感し思いやる気持ちを忘れかけている。殺伐とした時代の空気を感じます」

 ──エンタメで、そうした時代の空気に風穴をあけることはできますか。

「ロシアではフェイスブックもインスタも禁止、個人の表現のできない統制下にあります。私はキーウ出身ですが、モスクワに20年住んでいて、大好きなロシア人のなかで生活していました。彼らは野蛮人ではなく、すばらしい文化があり、良い国を築いていく可能性を今も持っています。ただ、いまの政権によって抑えつけられているに過ぎない。そんなファシズム、恐怖政治によって言論も表現の自由も剥奪され、国民は何も言えないなんて、いつの時代なんだと。私はSNSや映画で訴えていますが、たくさんの賛同の声が聞こえてきます。支援もある。日本の皆さまにもこの場を借りて、お礼を申し上げたい」

 ──ご長男はケンブリッジ大の博士号を持ち、現在ゼレンスキー大統領の経済顧問。「ウクライナ全土を取り戻す」と公言しています。

「息子とはつねに連携していくつもりです。それに、恐怖支配で声に出せないだけで、侵攻に反対という人が映画業界にも大勢います。『排除』なんかに屈しませんよ」

(聞き手=長昭彦/日刊ゲンダイ)

▽アレクサンドル・ロドニャンスキー 1961年ウクライナ・キーウ生まれの映画プロデューサー。米ロスを拠点に映画「ラブレス」「裁かれるは善人のみ」「アンネ・フランクと旅する日記」などを製作、アカデミー賞に2度ノミネート。モスクワに20年在住。

■「戦争と女の顔」はベラルーシのノーベル賞作家S・アレクシエービッチによるノンフィクション「戦争は女の顔をしていない」を原案に、第2次世界大戦後のレニングラードで生きる女性2人の運命を描き、第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞と国際批評家連盟賞を受賞。15日(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷など全国順次公開。

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