映画「戦争と女の顔」のプロデューサー「プーチンは看過できないのでしょう。それが史実でも」
【特別インタビュー】A・ロドニャンスキー(ウクライナ出身の映画プロデューサー)
《あなたの携わったすべての作品、仕事を国の現代文化から排除する》
ウクライナ侵攻のロシアはエンタメ関係者をも脅し、迫害している。ウクライナ出身の映画プロデューサー、アレクサンドル・ロドニャンスキー氏(61)は映画「ラブレス」などで知られ、日本では「チェルノブイリ1986」に続き、現在「戦争と女の顔」が公開中だが、そうしたキャリアをロシアは防衛大臣名義の書簡で全否定し、今後一切、ロシア国内で上映させないと封殺を宣告したのである。
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「私は侵攻から反対の声をSNSなどで上げ、今も続けていますが、それでも書簡は予想外でした。まず排除とはどういうことか。共に製作してきた素晴らしい監督たちにどう説明したらいいか。対処法も何も分からず、混乱しました」
──監視や脅し、拉致といった身に危険が及ぶこともありますか。
「(『戦争と女の顔』でタッグを組んだ)カンテミール・バラーゴフ監督は家族ともども脅され、ロシア領バルカル共和国から国外脱出しました。私は一カ所にとどまらない生活をしていて、今のところそうしたことはありませんけど、ウクライナにいる家族や親戚たちの身を守り、安全確保に手を尽くしています」
──万一、捕まるとどうなるのでしょう。
「当局にひとたび目をつけられると、襲われたり、拘束され投獄されたりする。暴力を振るわれ、殺された人もいる。犯罪をでっち上げられ、仕事を奪われ、家族を養えなくなって破滅というケースもある。国外に逃げても、カードを使えなくされたり、亡命しようにも、書類手続きに応じなかったりするのです」
■PTSDで苦しむ戦争帰りの若い女性を描いた「戦争と女の顔」が公開
──新作「戦争と女の顔」も、目をつけられ、排除の理由だったと。
「そう思います。舞台は第2次世界大戦直後のレニングラードの混乱期ですが、プーチンにとっては宿敵ナチスを倒し、ロシア史上最高の時代です。戦争に行った兵士は皆英雄だから英雄として描かれるべきと当然のように思っている。ところが『戦争と女の顔』は戦争帰りの若い女性目線で描き、彼女たちは居場所を失い、PTSDで苦しんでいる。それが史実であっても、看過できないのでしょう」
──そんな政権下、ロシアでの上映会では、女どうしのキスに観客からクレームがついたと。
「ええ。この国の神聖な時代を描くのにレズビアンなんてあり得ないとの猛抗議でした。ロシアでは、戦争が世界を変える最も効果的なツールで、解放のスペシャルオペレーションだという世論が信じられないかもしれませんけど、一定数あるんです。政府がそうプロパガンダし、ウクライナ侵攻も、ロシア兵は解放のため悪党を退治しているだけ。行儀よく、殺しなどしないと信じ込まされている。脅しと洗脳による支配の結果でしょう」
──そうした抗議にどう対応したのですか?
「戦争で子どもを産むことのできない体にされ、よりどころもなければ将来も見いだせない女性が肩を寄せ合い、ぬくもりを求め合っているだけ。そんな彼女たちを気の毒に思ったり、同情したりする気持ちはないのですかとたずねました。戦争という極端な状況下で生活の基盤が崩れ、人生に普通の幸せを見いだすことすら難しくなってしまう状況を映画で疑似体験してもらいたい。いまウクライナの人々が見舞われている惨状、窮状と似たところが多々ある。たった1カ月で人相が変わり果ててしまった知人もいます。こうしたことに昔も今も変わりはないと」
──映画には、そうしたことに気づかせる力はあるとお考えですか?
「ええ。プーチン政権は反デモを弾圧し、報道を潰し、公然とした事実すら歪曲し、理性的なところなど皆無で嘘八百を並べ立てて、独裁や侵略を正当化します。そう考えると一貫している。私も声を大にして反対、抗議し続けること、作品製作を続けるしか道はないと腹をくくりました」