ひっそりこの世を去った 昭和の大女優 沢村貞子
■1996年8月
1908年生まれで30年にデビューし、大女優として一時代を築いた沢村貞子。戦前には治安維持法下で、所属劇団が思想弾圧を受け、自身も逮捕され、2年近く獄中生活を送るなど波乱の生涯を送ったことで知られるが、最後まで自らを貫き通した人だった。
沢村は戦後、100本以上の映画に出演し、名脇役として活躍していたが、エッセイストとしても高く評価されていた。70歳の78年には、その半生がNHKの朝ドラ「おていちゃん」として放送され、最高視聴率が50%を記録する国民的なドラマになった。
だが、80歳で決断をする。立ち上がる時に「どっこいしょ」とかけ声をするようでは女優は務まらないと引退表明。神奈川県横須賀市のマンションに引っ込んだ。その後は海を眺めながら、執筆活動と得意の料理に打ち込む生活を送った。
その後の動静はあまり伝わらなかったが、体調を崩したのが96年夏。6月24日に39度の熱を出して倒れたという。以来高齢もあって寝たきり状態になり、最後は本人の意思で治療を謝絶した。