お車代はボランティアで渡しているわけではなかった
編集部に私宛ての電話がかかった。
80年代前半の話だ。
声には聞き覚えがあった。
1週間前、週刊誌の特集記事の取材に駆り出された私は、とある関東地方のソープランド(当時はトルコ風呂)に向かった。
日曜日の午後、自宅から2時間以上かけて到着したときは、日が陰り、空っ風が吹き出した。
さあ、これから体験取材だ。
20代半ばの私は若さもあって、ソープ嬢との体験取材に萌えていた。
「あいにくこれになっちゃって」
応対した中年の店長が指で×印をつくった。女性特有の現象なのか、入浴は不可となった。
寒空のなか2時間以上かけてやってきた私はかなり落胆した。別のソープ嬢から話を聞き出し、写真を撮った。期待していた体験取材はなし。現場での混乱は珍しいことではない。
「これ、わるいけど」