お車代はボランティアで渡しているわけではなかった
店長が封筒を私のポケットにねじ込もうとした。中にラブレターが入っているわけではない。お車代と称する現金にちがいない。先輩編集者が吉原で店長から同じように封筒を突っ込まれそうになったとき、激しく拒絶したのを教訓として、私は取材現場で何度も渡されかけたがそのたびに拒否した。「受け取らないの、あんたが初めてだよ」。よくそんな言葉をもらった。
今回もそのはずだったが、店長はポケットに封筒をねじ込むと、私をドアの外に押し出した。封筒を返そうとしたが、カギを閉められてしまった。封筒の中には2、3枚の何かが確認できた。魔が差した。
翌週。
私宛てにかかってきた電話の声は、あのときの店長だった。
「ゲラ、ちょっと読んでみてくれる?」
声のトーンが違っていた。強気だ。
私はまだ原稿があがっていないからと、伝えた。
お車代はボランティアで渡しているわけではなかった。受け取った段階でビジネスになっているのだ。