理想は自然死 飲まず、食わず、悔いず 眠るように

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 大切なのは本人が「十分生きた」「やり切った」と思える気持ちになることです。先に亡くなった家族や知人との死後の再会を考え、死を前向きに受け入れる準備も大切です。

 死を前にした患者が病院や医師に期待していいのは、「いつまで自由に動けて、自分の意思を伝えられるのはいつまでか」という見通しです。患者さんは、死を医師や病院に委ねることなく、残された人生の幕引きをどう使うか、自分で決めるべきです。

 私の知人の政治家は、がんで余命数カ月と知ると、子供にわが身を背負わせて、政敵の自宅を訪ね、「君とは立場の違いで大いにやりあったが、尊敬していた」と語り、遺恨を残さず、眠るように逝かれました。理想の死とはこういうことをいうのではないでしょうか。

▽いしとび・こうぞう 1935年、広島県生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、外科学教室に入局。ドイツのフェルディナント・ザウアーブルッフ記念病院で血管外科医として勤務した後、72年東京都済生会中央病院へ。93年同院副院長。05年から現職。診療の傍ら、講演会や執筆を通して老衰末期のみとりの在り方の啓発に尽力している。著書に「『平穏死』を受け入れるレッスン」(誠文堂新光社)、「『平穏死』のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか」(講談社)などがある。

【連載】医師語る 「こんな病気で死にたい」

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