手術中は痛みで暴れ回り職員に取り押さえられていた
針は通常、先端が竹筒状になっているが、ナノパスは斜めに切ってある。言葉にすれば簡単だが、岡野さんは1枚の板をトントン叩き、それを0.2ミリほどまで細くした。蚊の針、それを口器というらしいが、まさに蚊の針と同じだ。岡野さんは医療機器会社から一切研究費をもらわず、町工場の技術だけで作っちゃった。このオジサンのおかげで、世界中の糖尿病患者がインスリンを打つのが怖くなくなったと思う。
インスリンを打ち始めてから2年後……。2009年2月に肝硬変と診断され、「余命4カ月」を告げられた。肝性脳症という意識障害に陥り、夜中に庭に出ていた記憶がないこともあった。
結果的に肝硬変は事なきを得たが、それから3年後の12年3月、今度は食道がんが発覚した。1カ月後に入院して精密検査してみたところ、食道に静脈瘤が見つかった。
「切除しないと静脈が破裂してしまう」という医師の説明を受け、がんの手術の前に静脈瘤の手術を受けることになった。肝臓が悪いから解毒作用がなく、血液が逆流してコブをつくってしまうとのことだった。