“義務”を果たせば学費免除の育成システムを全国で導入すべき
医師不足に悩む地方医療の疲弊を食い止める――。1973年からスタートした「1県1医大政策」の精神を今こそ見直すべきである。前回そんなお話をしました。
「努力して医者になり、地元や地方の患者さんのために貢献して社会に恩返しをしたい」
そんな志を持った質の高い医師を育てるためには、新型コロナ禍にある今こそ医師育成制度を見直し、柔軟性の高い将来構想を形成する必要があると考えます。
いまは医師を1人育てるまでに早くても12年ほどの期間がかかります。大学の医学部で6年間の教育を受け、医師国家試験に合格して医師免許を取得し、卒業後は医療機関で研修医として6年働いてから、ようやく一人前の医師となります。
そうやって医師になった若手の多くは「都市部の大病院の方が症例数が多く経験を積めるし、最先端の医療を習得できる」と考える傾向が強く、医師が都市部に集中して、地方では不足しているのが現状です。この傾向はまさに1県1医大政策に逆行するもので、いわゆる「医師偏在」を揺るぎないものにしてしまいました。都市部の基幹病院で研修を希望する若手医師だけの責任ではなく、地方の大学病院や基幹病院を軸とする医療体制と研修内容にも責任があったといえます。
現在、医学部が設置されている大学は、国公立が51校(省庁大1校を含む)、私立が31校ありますが、その中に特殊な種類に分類されている大学があります。防衛医科大学校、自治医科大学、産業医科大学です。これら3校は、卒業後に特定の勤務先で働く義務を果たすと、数千万円かかる学費が免除される制度があるのです。
防衛医大は卒業後9年間は自衛隊に所属して全国各地の自衛隊病院などに勤務。自治医大は医師免許取得後に県知事が指定する公立病院などに通常9年間勤務し、その半分の期間を離島・へき地公立診療所に勤務。産業医大は卒業後に通常9年間は企業専属の産業医として働く――といった具合です。
■医師の偏在を解消できる
これら3校と同じように公費を投入して学費を免除したり、奨学金を支給して医師を育て、その代わりに一定期間は医師偏在を解消しつつ、医師としての経験や技術を習得できる枠組みを1県1医大制を骨格とした連携を利用し、組織が決めた医療機関で働いてもらう――というシステムを構築するのです。これを国公立も私立も一律に医学部が設置されているすべての大学で採用する。これで医師の偏在による地方医療の疲弊は解消されるのではないかと私は考えています。
いまは医学部卒業後の初期臨床研修が2年、後期臨床研修が4年で、研修期間が合計6年あります。たとえば、全国の医学部が先ほどの育成システムを採用し、研修期間も含めて最低6年間は、学費や奨学金の返還免除のために指定された医療機関に勤務する。現在、年間でおよそ8000人の医師が新たに輩出されています。先ほどの育成システムによって、全国各地の医療機関に毎年8000人が配置されれば、医師の偏在はなくなっていくでしょう。
医師をどこに、どう配置するかなどの混乱を避けるためには、臨床研修で使われているマッチングシステムを取り入れます。マッチングシステムは、臨床研修を受ける医学部生と、臨床研修を実施している医療機関の研修プログラムを、お互いの希望を照らし合わせたうえで組み合わせを決定するシステムです。2004年度に臨床研修が義務化されたことに合わせて導入されたので、すでに15年以上の実績があります。
臨床研修はもちろん、それ以降もマッチングシステムを利用するのです。研修内容の質などは著名誌が頻繁に行っている「病院の格付け」などを基に点数化して、医師の振り分けの基本情報とするのがいいと考えます。これによって、学費や奨学金の返還を免除する育成システムで医師になった若手が全国各地で均一に働く体制が整います。
そうした下地をつくったうえで、次は頭数を揃えた若手医師をさらに育てて成長させる環境が必要です。そのためには、指導する側のベテラン医師たちの配置換えも欠かせません。「志のある医師を育てて地方医療の疲弊を食い止める」という1県1医大政策のスピリットを持っている医師たちを募り、地域に根付いて臨床と医師の育成を行ってもらうのです。可能性を感じさせる臨床研究もそれぞれの地域の教育機関で行えるようになればさらに理想的です。
こうした人材を集めるためには、いまの医療界全体をいったん「ガラガラポン」する必要があるでしょう。また、公費を投入する育成システムを実現させるためには、財源も考えなければなりません。
次回、さらに私の考えをお話しします。
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