認知症における「肥満パラドックス」は遺伝子の型で異なる
ある遺伝子タイプが多い人は、肥満が認知症リスク低下に働く
アポリポタンパクEと言っても、初めて聞いたという人が大半でしょう。少しややこしい説明になりますが、もう少しお付き合いください。
アポリポタンパクE、略してアポEは、リポタンパクと結合して脂質の代謝に関与するタンパク質です。アポEには遺伝子によって決まる3つのタイプがあります。それは、E2型、E3型、E4型。このうち、E4型は強力なアルツハイマー病のリスク遺伝子で多く持っている人はアルツハイマー病になりやすく、E2型が多い人はアルツハイマー病になりにくいことがわかっています。
国立長寿医療研究センターの研究グループらによると、80歳以下の健常者において、E2型保因者、E3型保因者では、肥満がある方が認知機能が有意に低下しており、特にE2保因者ではその程度が大きかったのです。さらに全被験者では、E2型保因者には、肥満者の方が微小梗塞(脳の血管障害)が有意差を持って多く見られました。
では、E4型保因者では? 80歳以下では、肥満だろうとそうでなかろうと、認知機能の低下度には有意差がなし。認知症の発症においては、E4型保因者では肥満が発症を顕著に抑制しているとの結果。記憶力においても、E4型保因者では肥満の人が有意に低下度が少なかったのです。また、アルツハイマー病の原因物質であるタウの蓄積の程度は、肥満者でない人の方が有意差を持って上回りました(表参照)。
この研究から読み取れるのは、次の内容になります。
・アポEのうち、E2型保因者は遺伝子的にはアルツハイマー病になりにくいが、肥満があると加齢でリスクが高くなる微小梗塞を起こしやすく、認知機能が低下しやすい(=加齢による認知機能低下が、肥満で促進される)
・E4型は強力なアルツハイマー病リスク遺伝子で、保因者はアルツハイマー病になりやすいが、肥満があると認知症の発症は抑制される(=病的な認知症発症は、肥満で抑制される)
この研究結果が今後どう生かされていくか。興味深いものがあります。
ところで、このアポE4型、女性においてより強力なアルツハイマー病発症の危険因子であることがわかっています。金沢大学付属病院神経内科は、認知症の疫学研究で、アポE4型保因者の女性では、血中ビタミンC濃度が最も高い群は、低い群と比べて、将来の認知機能低下が0.1倍、オッズ比で減少したとの結果を発表しています。