横綱で“皆勤負け越し”経験 芝田山親方は稀勢の里どう見る
いまや崖っぷちの横綱稀勢の里。横綱審議委員会から「激励」され、初場所(13日初日)の成績次第では「引退」の2文字も濃厚だ。現在、日本相撲協会の広報部長を務める芝田山親方は現役時代、横綱大乃国として一場所15日制になって初めて皆勤負け越しを経験するも、引退せずに現役を続けた初の横綱。芝田山親方は同じ二所ノ関一門の稀勢の里をどう見ているのか。
■右からの攻めの必要性
――昨年は8場所連続休場後に出場した秋場所(9月)で10勝5敗。内容はどうでしたか?
受け身の体勢が多く、攻めきれていなかった。本人も、もどかしい部分はあったでしょうね。特に左の差し手にこだわるあまり、右の上手からの攻めがない。稀勢の里の場合、立ち合いで当たってから押し込んで、右の上手を引くのが安定した取り口だと思います。これが左差し一辺倒だと受け身の形になってしまう。相手にすれば右をおっつければ、もう攻められる心配はありませんからね。秋場所は10番勝ちましたが、内容は厳しい。負けた5番も、不甲斐ない相撲が何番かあった。私は一昨年から、右からの攻めの必要性を説いていたのですが……。
――なぜ、稀勢の里は左差しにこだわるのでしょうか。
慌てて前に出ていって、(引き技などで)バッタリ落ちたくないから足が出ない。だから左差しにこだわっているのではないか。でも、どの力士も稀勢の里の攻め方はわかっています。やはり、右の上手から攻めてほしい。自分から相手を押し込んで、次につながる相撲を取ってほしいんです。横綱であっても、何番か落とす相撲もあるでしょう。でも、それを怖がらずに踏み込んで攻めてほしい。相手を封じ込める相撲を取ってほしい。それが私の希望ですね。
――九州場所(11月)はいいところなく初日から4連敗して休場。初場所(1月)は進退がかかっていますが……。
私が気になっているのは、冬巡業に出なかったことです。これは「横綱は協会の看板だから出るべき」と言うのではありません。大相撲は1カ月おきに本場所がある。場所から場所の間の稽古は非常に重要なのです。そこで力士は貯金をつくる。日頃からコンスタントに稽古しなくてはいけません。
――九州場所は右ヒザ挫傷捻挫で休場しています。
ケガはケガ。もちろん治療は必要です。でも、今の稀勢の里に必要なのはケガを克服した上で積み重ねる稽古。巡業に出て、稽古で体を慣らしていった方がいい。初代若乃花の二子山親方が「土俵のケガは土俵の砂で治せ」と言ったのは、そういうことです。私が現役の頃は、「本場所を休んでも巡業には出ろ」とよく言われたものです。巡業に参加せず、部屋で治療や稽古といっても……。本場所直前の押し迫った時期に出稽古に行っても、それでは足りないし、間に合いません。
――横綱審議委員会からは「激励」もされました。
委員の方々からは、初場所には出てほしい、という声もありました。ただ、厳しく言えば初場所は進退が問われることになると思う。長い休場の末、九州場所では白星がひとつもなく、冬巡業も出ていない。これでは横綱の立場というものを考えなければいけないでしょう。ここまできたらおべんちゃらではなく、厳しい言葉をかけるしかない。でも、何とかそれを乗り越えてほしい。横綱の先輩として、頑張ってほしい、奮起してもらいたい、というのが私の願いです。