稀勢の里を描いた「愚直」の荒井太郎氏に聞く7月場所展望
■「マグロの大トロは毒と思え」
――稀勢の里が引退して、3場所目を迎えます。
「執筆のきっかけは2017年3月場所で稀勢の里が優勝し、日本中が沸き返ったタイミングで出版社から『本を出しませんか』というお話をいただいたことです。私は以前、単行本の企画で稀勢の里を育てた先代鳴戸親方(元横綱隆の里)の取材を頻繁に行っていましたが、11年に亡くなられて、その企画も立ち消えになってしまいました。なので、稀勢の里の本の話があったとき、ぜひ、先代の話も盛り込もうと思いました」
――この「愚直」ではさまざまな先代師匠の教えが書かれている。最も印象深い教えは何ですか。
「『マグロの大トロは毒と思え』ですね。横綱ともなるといろいろな人が寄ってきて、さまざまな誘惑も多くなる。さらに給料も増えて、欲しいものは何でも手に入る環境になります。でも、何でも手に入れてしまうと、相撲も弱くなる。そりゃあ、マグロの大トロはおいしいから食べたいじゃないですか。ごちそうしてくれる人もたくさんいるでしょうし、自分でも好きなだけ食べられる。だからといって好きなだけ食べたら体を壊してしまう。何でも手に入る立場だからこそ己を律しなければいけないのが横綱という地位だと思います」