東京五輪は海外客受け入れず 突きつけられる「3つの地獄」

公開日: 更新日:

 安倍前首相、菅現首相が口を揃えて強弁していた東京五輪パラリンピックの「完全開催」が頓挫した。20日の5者協議(組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会)で海外からの一般客受け入れ断念を決定。変異株の出現でコロナウイルスが再び世界的に拡大している現状を考えれば当然の判断とはいえ、この決定が及ぼす影響は極めて大きい。

■海外チケットを巡る訴訟禍

 組織委はすでに、約63万枚の海外向けチケットを販売済み。今後、各国のオリンピック委員会が公認する販売事業者・代理店を通じて全額が払い戻しされる予定だが、航空券やホテルとセットで販売されたものが多数ある。チケット代は返金しても、航空券やホテルのキャンセル料はどうなるのか。大会関係者によれば、「IOCや組織委にキャンセル料を負担する義務はない」という。客と代理店の問題というわけだが、組織委内部には「知らぬ存ぜぬで済むのか」と訴訟リスクを懸念する声がある。

 浦上総合法律事務所の浦上俊一弁護士が言う。

「組織委が定める東京五輪のチケット購入・利用規約には【(組織委は)スケジュール変更によりチケット利用者に生じた損失については、責任を負いません】【チケット保有者が自ら手配する移動手段、宿泊、飲食等については、チケット保有者自身の責任で行なってください。(中略)本大会関係団体では一切責任を負いかねます】と明記されています。組織委にキャンセル料を負担する義務はありませんが、旅行代理店と客の間で支払いに関するトラブルが生じる可能性は十分に考えられる。旅行代理店は訴訟リスクを負うわけで、それによって大きな損害を被った場合、IOCや組織委に損害賠償請求する事態は想定されます。また、IOCや組織委にとっては、公式スポンサーとの問題も懸念材料でしょう。海外からの一般客の受け入れを断念したことで、当初想定していたプロモーション活動やグッズ販売などの効果が縮小される。さらに国内の観客数も制限される、あるいは無観客での開催となれば、多額の契約料に見合うビジネスが展開できない。スポンサーからの訴訟リスクも抱えることになるかもしれません」

■収入大幅減で財政破綻

 今回の決定で、開催都市の東京都も当然のことながら、大きな損害を被る。組織委は当初、国内外のチケット収入だけで約900億円の利益を見込んでいた。それが、750億円まで目減りすることになる。

 国士館大の非常勤講師でスポーツライターの津田俊樹氏がこう言う。

「東京五輪において組織委では賄えない損失が生じた場合、それを都が負担する取り決めになっています。都の財政はただでさえ、コロナ禍や消費の冷え込みで逼迫している。1年延期による追加費用もすでに大きな負担になっています。海外客どころか無観客開催となれば、財政破綻にも直結しますよ」

 東京五輪の開催費用は総額約1兆6440億円で、東京都はそのうち1年延期による追加費用1200億円を含む7170億円を負担することになっている。津田氏が言うように、2021年度の都税収入は前年度比で約4000億円減となる約5兆円。インバウンド需要も霧散し、財政難が現実味を増している。

「コロナ禍での東京五輪は世界でも歓迎されていない」

 いよいよ東京五輪開催の意義も薄れた。五輪憲章の根本原則には、オリンピズムとは「文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出されるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である」と明記されている。前出の津田氏がこう言う。

「五輪は単に世界のトップアスリートが覇を競うだけの大会ではありません。世界中から集まる観客との交流を通じ、国際化や異文化への理解を深め、世界平和を実現するというのが五輪開催の最も大きな意義のひとつです。その理念、建前がなくなった。すでに、日本国内の世論調査では東京五輪の中止・延期を望む声が8割に達していますが、それが世界に伝播する。海外客の拒否で東京五輪への期待や興味が世界的にしぼんでいくのは間違いありません」

 現に20日に発表された公益財団法人「新聞通信調査会」の聞き取り調査の結果によれば、米国・フランス・中国・韓国・タイの5カ国それぞれ約1000人に東京五輪開催の是非を聞くと、「中止すべき」「延期すべき」と答えた人が、すべての国で7割を超えた。

「コロナ禍での東京五輪が、世界でも歓迎されていないことを示す結果です。これは、アスリートの参加にも影響する。それぞれの母国の国民にも望まれない大会に出る意味があるのか。選手の間に失望感が広がり、辞退を考えるアスリートも出てくるでしょう。一方でIOCは海外客の受け入れ断念でオリンピズムを骨抜きにしながら、スポンサーの関係者や招待客の受け入れは認めるよう要望している。商業化に邁進するIOCの本性を見事に露呈しています」(津田氏)

 いずれにしろ、ますます東京五輪開催の意義はなくなった。次の決断は無観客ではなく中止だ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末