【陸上】男子400mリレー決勝「夜10時50分スタート」のバカバカしさと米国予選敗退の皮肉
男子400メートルリレーで金メダルを狙う日本がギリギリで決勝進出を決めた。
昨5日の予選1組に登場。第1走者の多田修平(25)から100メートル日本記録保持者の山県亮太(29)、桐生祥秀(25)が好走し、アンカーの小池祐貴(26)はジャマイカ、英国のアンカーに食らいつきながら、フランスの猛追をしのぎ、38秒16で3着に入った。4着のフランスは38秒18で落選。その差はわずか0秒02だった。
決勝進出が期待された山県、多田、小池の100メートル代表3人は7月31日の予選で敗退。決勝どころか、準決勝に一人も進めなかったのは、2004年アテネ五輪以来の屈辱だった。サニブラウンら200メートル代表も予選を通過できず、日本勢の調子が上がらない一方で、世界のライバルたちは日本以上にレベルを上げ、差が開いた現実が浮き彫りになっていた。
それでも400メートルリレーでメダルを獲得すれば、08年北京の銀、16年リオの銀に続く2大会連続3度目になる。日本中が注目する決勝はきょう(6日)午後10時50分の夜中にスタート。それにしても、なんだってこんな遅い時間に行われるのか。
これは国際オリンピック委員会(IOC)に120億ドル(約1兆3200億円)もの放送権料を支払う米テレビ局NBCユニバーサルの意向が大きい。競泳の決勝は北米のゴールデンタイムに合わせ、日本の午前中に行われた。リレーの決勝や開会式が日本の深夜に行われる理由もしかりだ。日本の午後11時は米ニューヨークの朝10時になる。
子供もお年寄りも見られない時間帯
東京五輪組織委員会の橋本聖子会長は「アスリートファーストの視点でミッションを果たしていく」と繰り返し、森喜朗前会長は「次世代に残るレガシー(遺産)を築き上げることが私の役割」と力説したが、スポーツファンの吉川潮氏(作家)は呆れ顔でこう言った。
「5日の予選は午前中で6日の決勝は深夜ですから、選手は難しい調整を強いられます。慣れない朝や夜中にレースを行うはめになった選手たちは気の毒で、これのどこが『アスリートファースト』なのか。視聴者もいい迷惑ですよ。午後の11時では遅すぎて、日本の小さい子供たちや年配の方たちは見られない時間帯。国民全員が楽しめない五輪のどこが『レガシー』なのか。夜中の注目競技に観客を入れていたら、それこそパニックになったかもしれません」
全くである。競技時間が長く、ルールが難しい野球やゴルフと比べ、陸上の100メートルや400メートルリレーはシンプルで分かりやすいため、子供にも人気の競技である。吉川氏が続ける。
「本来なら開催国のゴールデンタイムにやるべきなのに、日本政府も組織委もIOCの意向を受け入れるだけで、アスリートや国民のことは後回し。競泳の午前中の決勝もそうだし、陸上の夜中の決勝もそうです。開会式も夜中の0時近くまでやっていた。開催国の都合を全く無視した時間帯なのに、ノーと言えない政府や組織委。まるで黒船がやってきて開国させられ、強引に不平等条約を結ばされた江戸幕府のようで、日本国民として恥ずかしい限りです」
優勝候補の米国は400メートルリレーで過去に金メダルを15、銀メダルを2個獲得している。人気種目だからこそ、決勝を米国に合わせた時間帯に持ってきた。
この日は今季世界最高の9秒77をマークしたブロメルら主力を起用したが、日本より速い38秒10を出しながら、予選2組の6着で予選を通過できなかった。
米国が出場しない400メートルリレーの決勝を一体どれだけの米国国民がテレビ視聴するのか――。夜中にやる意味がなくなってしまったのは、皮肉としか言いようがない。