演劇えんま帳
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【追悼】高取英さん 過激で心優しき異端の劇詩人
人気劇団「月蝕歌劇団」の代表である劇作家・演出家の高取英さんが26日、虚血性心疾患のため世田谷区の自宅で亡くなった。享年66。 1982年に演劇舎螳螂が初演した「聖ミカエラ学園漂流記」は高…
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KAAT「華氏451度」 無機質な現代の日本社会へ警鐘を鳴らす
原作はSF小説の巨匠、レイ・ブラッドベリが1953年に発表した同名小説。本の所持や読書が禁じられた近未来社会を描いたもので、タイトルは紙が燃え始める温度(華氏451度=セ氏約233度)を意味している…
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「蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~」 詩人の魂を昇華
1986年に松金よね子、田岡美也子、岡本麗の3女優が結成した演劇ユニットの解散公演。2015年に初演された作品であり脚本の長田育恵が第19回鶴屋南北戯曲賞を受賞している。 サブタイトル通り、…
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On7「その頬、熱線に焼かれ」 原爆乙女の矛盾と葛藤を活写
劇団チョコレートケーキの古川健が2015年に新劇女優7人のユニットであるOn7(オンナナ)第2回公演のために書き下ろした作品で、演出は日澤雄介。 原爆投下から10年の1955年。広島で被爆し…
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松坂桃李が非情な殺人マシンの複雑な内面を浮き彫りにした
人気俳優・松坂桃李がIRA(アイルランド共和国軍)の“殺人マシン”ヴィクター・マクガワンを演じる3部作(トリロジー)。作者はアイルランドの作家、シェーマス・スキャンロン。演出は小川絵梨子。 …
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青年座「安楽病棟」 超高齢化社会の“生と死”の問題を凝縮
原作は精神科医で作家の帚木蓬生、脚本は杉村春子賞受賞のシライケイタ、演出は気鋭の磯村純。 舞台は東京郊外の認知症病棟。お地蔵さんの帽子と前垂れをひたすら縫い続ける女性、夫の差し入れするサーモ…
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浅利演出事務所「李香蘭」 時代経てさらに深化した反戦劇
浅利慶太演出の劇団四季オリジナルミュージカルとして1991年に初演されて以来、今回の公演で900回に迫るという人気作だが、27年という時間は「平和国家日本」の様相をガラリと一変させてしまった。そのた…
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元「男闘呼組」が新生面 高橋和也の迫真の演技に身震い
坂手洋二(作・演出)が演劇集団円の岸田今日子と塩見三省のために2002年に書き下ろした二人芝居。今回は高橋和也と都築香弥子が出演。 舞台設定は2002年。一人の男が刑期を終えて出所する。彼は…
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2つの顔を往還 小泉今日子が見せつけた圧倒的な存在感
小泉今日子がアングラ・小劇場の老舗「椿組」に主演し、劇場が下北沢の小劇場ザ・スズナリということで話題の舞台。劇作家・青木豪が彼女に「当て書き」し、文学座のエース・高橋正徳が演出したもので、期待にたが…
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石原さとみのナチュラルな演技が光る「密やかな結晶」
芥川賞作家・小川洋子の原作を舞台化したもので、脚本・演出は岸田國士戯曲賞作家・鄭義信。 舞台はとある小島。この島では次第にモノが消滅していく。香水、鳥、鈴、リボン……さまざまなものが消滅し、…
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「愛されたい女たち」の願望と心の痛みをリアルに体現
主宰者で作・演出の矢島弘一はテレビドラマ「コウノドリ」などの人気脚本家。「毒島ゆり子のせきらら日記」で向田邦子賞を受賞している。 舞台は北海道の小さな漁師町。年の離れた茉莉花(加藤玲奈)と再…
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終盤の展開に涙…故郷を喪失した人々の哀しみと再生
夕張――かつて良質な製鉄用コークスを産出し、「炭鉱の町」として高度経済成長を支えた町。しかし、国のエネルギー政策の転換により、閉山に追いやられ、ついには財政破綻。町を出ていく人は後を絶たず、2015…
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7000人が無言の抗議…安倍政権に危機感を強める演劇界
安倍首相の続投によって演劇界が危機感を強めている。2015年9月19日の「戦争法」強行採決を機に発足したのが「安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会」だった。 呼びかけ人は…
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不条理の間を往還 ナンセンスでブラックな超一流の笑い
作・演出の山内ケンジはCMディレクター出身。2004年に女優の故深浦加奈子とのユニット「城山羊の会」で演劇活動を開始。15年には岸田國士戯曲賞を受賞。昨年は映画監督第3作「At the terrac…
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井上ひさしの傑作「きらめく星座」 排除の時代への抵抗
1985年初演の井上ひさしの音楽劇であり、きら星のごとき井上作品群の中で飛び抜けた傑作といっていい。演出は栗山民也。 舞台は1940年、浅草にある小さなレコード店「オデオン堂」。そこに暮らす…
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「散歩する侵略者」 キナ臭い時代に向けた痛烈メッセージ
SF的な手法で日常に潜む異界を独自の視点で描く前川知大(作・演出)。虚構でありながらリアルな手触りが特徴。この舞台は映画化された代表作をブラッシュアップしたもの。 日本海に面した小さな港町。…
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テーマは「老いる」 三田村周三の枯淡の演技が胸を打つ
人は誰でも心の片隅に消すことのできない「染み」を抱えながら生きている。人生という緩やかな時の流れの中で、向き合わなければならないその「染み」は例えば、老いであり、病いであり、家族の愛憎である。 …
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劇作家・秋元松代の名作 舞台にみなぎるエロスと残酷と聖性
日本の演劇界を代表する劇作家・秋元松代には伝承伝説を題材にした土俗的な作品群があり、この「かさぶた式部考」も日本各地に伝わる「和泉式部伝説」を基に、社会の底辺に生きる人々の哀しみと魂の救済を描いたも…
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「水俣病問題」を通して浮かび上がる人間の矛盾と葛藤
脚本(詩森ろば)と演出(眞鍋卓嗣)と演技、美術、音楽、照明、衣装の絶妙なアンサンブル(調和)に加え、舞台に「目に見えない気迫」がみなぎった。 舞台は1980年代の東京。小さな印刷屋を営む安元…
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圧倒的な演技力が炸裂する「生と死とエロス」の輪舞
「浮標」「廃墟」「その人を知らず」「炎の人」といった重厚なセリフ劇で戦後演劇史に屹立する劇作家・三好十郎。創立80周年の文学座が取り上げるのは初めてで、3時間50分という大作ながら、まばたきをする間も…