『花まんま』結婚を目前に控えた兄妹。妹は死者と交流する不思議な秘密を抱えていた
4月25日(金)全国公開中/配給:東映
最初は「なんだか退屈なドラマだな」と思わせながら、徐々に展開がミステリアスになり物語のスケールが広がっていく。そんな映画をたまに見かける。この「花まんま」もそうした一本だ。下町人情話風の月並みなセリフが連発され、「またかぁ」と感覚の針が興覚めの方向に振れるが、兄妹の愛情物語にファンタジックな謎解きが絡み始めたあたりからぐいぐい引き込まれていく。居眠りもできない。
原作は朱川湊人の直木賞受賞作。「花まんま」とは花びらで作った弁当のことをさす。「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」「そして、バトンは渡された」などの前田哲監督がメガホンを取った。
幼くして父と母を亡くした加藤俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)の兄妹は大阪の下町でささやかに生きてきた。俊樹はフミ子を大学に進めるために高校を中退し、今も鉄工所で働いている。フミ子は勤務先の大学の研究者と婚約し、俊樹は目前に迫った結婚式を楽しみにしている。
しかしフミ子にはある秘密があった。小学校に上がる少し前に高熱を出して寝込んだときから、見知らぬ女性の名前をノートに書くようになったのだ。女性の名前は「繁田喜代美」。空想ではなく、実在の人物だ。観光バスのガイドを務めていたが、無差別殺人事件に巻き込まれた際に乗客を守ろうとして命を落とした。
幼いフミ子は自分の中に繁田喜代美の記憶があると言い、俊樹に頼んで滋賀県の彦根にある彼女の実家を訪ねたことがある。2人は喜代美の父・繁田仁(酒向芳)が墓参りする姿を目撃。同情したフミ子はツツジの白い花をご飯に、赤い花を梅干しに見立てた「花まんま」の弁当をつくって仁に渡す。それは亡くなった喜代美が生前につくっていたものだった。
幼いフミ子が亡くなった喜代美の分身だと気づいて涙を流す仁とその家族たち。そこから22年が経過した今、フミ子は結婚を控え、俊樹にある頼み事をするのだった……。
父母を失った兄妹と娘の命を奪われた父親たち。この2つの家族がファンタジーの世界で融合する。こう書くと「なあんだ、死者が蘇るドラマじゃないか」と片付けられてしまいそうだが、実は本作はもっと深い。