ニコール・キッドマン『ベイビーガール』 客席を圧倒するM女の喘ぎ声

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『ベイビーガール』TOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開中

 筆者は男だから、女性の心理はよく分からない。これまでの人生で「女は不可解なもの」「女とは何ぞや?」と首を捻ってきた。

 そうした疑問になにがしかの答えを与えてくれたのがこの「ベイビーガール」だ。ニコール・キッドマンが悶絶ラブシーンを披露。第81回ベネチア国際映画祭(2024年)の最優秀主演女優賞を獲得した。

 ニューヨークで事業に成功しロボットシステム企業のCEOを務めるロミー(キッドマン)は、舞台演出家の優しい夫ジェイコブ(アントニオ・バンデラス)と2人の娘とともに誰もが羨む生活を送っていた。だがロミーは満たされない性の渇きを抱えていた。

 ある日、彼女は道路を暴走する大型犬に飛びつかれそうになる。このとき一人の青年が一瞬で犬を落ち着かせ、飼い主に引き渡した。ロミーが経営する会社の若きインターンのサミュエル(ハリス・ディキンソン)だった。

 その日からロミーはサミュエルの存在が気になる。2人きりの面談の席でサミュエルは「あなたは権力欲が強いのではなく、むしろその逆で、命令されるのが好きなはずだ」と指摘。自分のマゾ性を見抜かれ、思わずキスを求めるロミー。

 許されないことと知りながら、彼の誘いを振り払うことができず、ホテルでの密会に発展。「僕のほうが強い立場にいる」と言うサミュエルに屈辱的な行為を命じられても逆らえず、禁断のセックスに導かれるのだった……。

 メガホンを取ったのは女流監督のハリナ・ライン。脚本も担当し、ニコール・キッドマンを想定して書き進めたと明かしている。ニコール・キッドマンの官能的演技ありきの作品というわけだ。

 ロミーはロボット開発企業のCEOだ。機械を動かし部下に指図する鉄の女が、年下のインターンにM性を見破られ、奉仕型の調教プレーにふけることになる。S男の命令に従って四つん這いになり、ネコのように皿の中のミルクをペロペロなめるといったショッキングな映像が続く。

 そもそも冒頭から扇情的だ。ロミーは夫のジェイコブと騎乗位で快楽を貪りながら、事後すぐにポルノ映像を見て自慰にふける。ポルノ映像から女性をひっぱたく音とともに喘ぎ声が漏れ、「ロミーの本性はマゾヒストか?」とアブノーマルな展開を予想させる仕掛けだ。

 男も女も、人間は2つの顔を持っている。本作のロミーは頼もしいキャリアウーマンの顔と倒錯愛を求めるM女の顔だ。映画だから「どうせ嘘っぱちだろ」と鼻で笑う人もいるだろうが、ここに描かれている人間模様は決して絵空事ではない。心の奥底でこうした禁断のプレーを求めている女性は少なくないのだ。

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