『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』排他主義とセクハラが横行するボリショイ・バレエの陰湿な裏舞台
TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開中/配給:ショウゲート
本作はクラシックバレエの世界を舞台にした一種のスポコンドラマ。だが野球やサッカーと違い、見ていると次第に気分が滅入ってしまう。バレエの特訓よりも、主人公が直面した苦難をストレートに描いているからだ。若く有望な女性が受けた試練の数々がスクリーンの中から我が事のように迫ってくる。硬派の社会派スポコン映画と言えるだろう。
監督はニュージーランド出身のジェームス・ネイピア・ロバートソン。イギリス・ニュージーランド合作だ。
15歳のアメリカ人バレリーナ、ジョイ・ウーマック(タリア・ライダー)の夢はボリショイ・バレエ団のプリマ・バレリーナになること。夢を抱いて単身ロシアに渡り、アカデミー生となったジョイを待ち構えていたのは、常人には理解できない完璧さを求める伝説的な教師ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)の厳しいレッスンだった。過激な減量やトレーニング、日々浴びせられる罵詈雑言、ライバル同士の蹴落とし合い。ジョイの精神は徐々に追い詰められていくのだった……。
本作は実話をもとにしている。モデルは2012年にアメリカ人女性で初めてボリショイ・バレエ団とソリスト契約を結んだジョイ・ウーマック。才能を見込まれてロシアに留学したはいいが、そこで待ち受けていた人々は全員が自分のライバルだ。米国人に主役の座を奪われてなるものかという排他的な敵意でギラギラ。ジョイと友達になろうとする女性ダンサーは一人もいない。唯一心を許したのは男性ダンサーのニコライ(オレグ・イヴェンコ)くらいだ。ヴォルコワら教師たちは総じて強面で、手が出る足が出るのスパルタな指導を行っている。
ジョイの前にはいくら努力し、才能を高めてもロシア人でなければ昇格できないという狭いナショナリズムが立ちふさがり、彼女はこれを克服するためにニコルとの結婚まで決意する。まさに涙ぐましい努力である。