「酒呑みの自己弁護」山口瞳著
開高健が芥川賞を受賞し寿屋(現サントリー)宣伝部を退職し、入れ替わりに入ってきたのが山口瞳だ。雑誌「洋酒天国」の編集を手がけ、「トリスを飲んでハワイへ行こう!」という名キャッチコピーを作った。そして自他共に認める酒呑み。本書は全編酒に関するエッセー集で、親本は1973年の刊行。高度経済成長が終わり、銀座のバーも大きく変化していく時代で、そうした様子も描かれている。
【あらすじ】著者の家は軍需成り金で、太平洋戦争が始まった1941年ごろが絶頂で、家にはいつも白鷹の樽詰が置かれていたという。そのとき著者は中学3年生。小学校5、6年生ごろから酒を呑み始めていたものだから(それも担任の先生に勧められてというから驚き)、もういっぱしの酒呑みで、瓶詰よりも樽詰のほうがうまいと感じていた。
当時高価だったサントリーの角瓶の12本ケースもあったというのだから、なんともぜいたくな酒の環境で育ったものだ。空襲の際には角瓶を持って逃げようとしたほど、その酒呑み人生は年季が入っている。
作家になったのは、小説家は、家と出版社と酒場の三角形を歩いているだけといわれた時代。吉野秀雄や高橋義孝、梅崎春生といった先輩作家たちの壮絶な酒の呑み方も紹介されている。とはいえ、それもひと昔前の話で、執筆当時は、銀座のバーに行っても小説家に会うことが少なくなったという。その銀座も社用族が幅を利かし、それに従ってバーの勘定が高くなり、酒を呑ませるよりもホステスで勝負する店が多くなったと嘆く――。
【読みどころ】昭和の酒場や酒呑みの生態が見事に活写され、エッセーの名手の面目躍如の文章が並ぶ。なにより酒への愛情がしみじみと伝わってくる。 <石>(筑摩書房 1400円+税)