「アモンティリャードの酒樽」(「E・A・ポー」所収) エドガー・アラン・ポー著 鴻巣友季子訳 桜庭一樹編

公開日: 更新日:

 シェリー酒というと食前酒というイメージが強いが、辛口から超甘口まで幅広く、いろいろな飲み方のできる酒だ。シェリーはスペインのアンダルシア地方のヘレス周辺で造られる酒精強化ワインのことで、シャンパンと同じく、シェリーを名乗れる製造法や産地など条件が決められている。アモンティリャードはシェリーの一種で複雑かつ魅力的な味わいのユニークなワイン。実際に飲んだことはなくとも、ポーのこの短編で名前を知っている人も多いだろう。

【あらすじ】語り手のモントレソールは何代にも遡る名家の生まれ。彼はフォルチュナートというワインの通ぶりを鼻にかけるイタリア人に、これまで1000回以上も傷つけられており、雪辱を果たすべく復讐の機会をうかがっていた。それも罪に問われないやり方で、しかも相手にこちらの意図を思い知らせてやれるように。

 ついにそのチャンスが巡ってきた。カーニバルの夜、フォルチュナートに遭遇し、アモンティリャードだという触れ込みの大樽を手に入れたのだが、怪しいので鑑定してくれないかと持ちかけた。自尊心をくすぐられたフォルチュナートはモントレソール邸の地下墓地までついてきた。中に誘い込むと、壁の錠前にフォルチュナートの四肢をくくりつけ、出入り口を石とモルタルで塞ぎ始めた――。

【読みどころ】途中で、フォルチュナートがある男をワインについて知らないと罵る場面が出てくる。これまでは「シェリーもアモンティリャードもわからない程度の人間」と訳されることが多かったが、アモンティリャードはシェリーの一種。本書は「アモンティリャードと並のシェリーの区別もつかない」と正確に訳されている。さすがワイン通の訳者。 <石>

(集英社 1300円+税)

【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情