「 幻の混合酒(ブレンド)」(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」所収) O・ヘンリー著 芹澤恵訳
雑誌「洋酒天国」で、開高健とともに酒の登場する小説を片っ端から読みあさった山口瞳が、酒そのものを描いた小説においては、どの作家も、このO・ヘンリーの短編に遠く及ばないと絶賛したのが本作だ。
【あらすじ】あるとき、ニューヨークの小路にある小さな酒場にライリーとマッカークという2人の男が現れ、店の裏手を借りることになった。2人はそこへ大量の酒とサイホンや調剤用の計量グラスなどを運び込み、日がな一日部屋に閉じこもり、正体不明の醸造酒や蒸留酒などをこしらえていた。
かつて2人はニカラグアでアメリカ式のバーを開店すれば儲かるのではないかと、ニューヨークで酒を大量に仕込み、定期船でニカラグアに向かった。あと少しで到着というとき、ニカラグア政府が、瓶入りの商品を持ち込む際には、中身にかかわらず一律申告価格の48%の輸入税をかけることにしたのを知る。慌てた2人は、大樽2つに、積んでいた酒瓶の中身を残らず入れた。
上陸後、樽の中身を調べてみると、1つはひどい代物だったが、もう1つは奇跡的に絶妙な味になっていた。しかもそれを飲むと、ひどくポジティブな気分になる。その噂は評判となって、あっという間にはけてしまった。その幻の酒をなんとか再現しようと、あらゆる酒を混ぜ合わせていたのだ。試行錯誤の末、酒場のバーテンの一言で秘密の鍵を見つけた2人は……。
【読みどころ】O・ヘンリーは、横領容疑で告訴されホンジュラスに逃亡したが、その経験が中南米を舞台としたいくつかの作品に結実している。本作もそのひとつ。また、過度の飲酒が彼の寿命を縮めたともいわれており、それを思うと、この短編にも一抹の悲しみの色を感じてしまう。 <石>
(光文社 720円+税)