生い立ちから引退まで…宇多田ヒカルが知らない「藤圭子28歳」の素顔
このインタビューは一度は「引退する藤圭子を利用しただけではないのか」という沢木氏の考えで刊行を断念しながら、34年越しに出版。その引き金になったのは藤の自殺だったことは明らかだ。ベテランの芸能記者はこういう。
「沢木氏は一時期、宇多田ヒカルの父親説が流れたほど藤圭子と親密な関係でした。晩年の藤はカジノ狂いなど奇行ばかりが報じられ、そのあげくの投身自殺。70年代を駆け抜けた歌姫という実像と乖離(かいり)した姿が世に流布されてしまった。宇多田は藤の死後に『彼女はとても長い間、精神の病に苦しめられていました』『幼い頃から、母の病気が進行していくのを見ていました』とコメントを発表した。今回の出版は宇多田の知らない藤のみずみずしい精神や素顔を伝えたいという沢木氏の気持ちからでしょう」
昭和歌謡界の裏面史としても読み応えのある同書は、藤自身による楽曲分析も興味深い。「十五、十六、十七と私の人生暗かった」に当時の人々は藤自身を投影していたという沢木の質問には、「暗くないよ。とりあえず、いまの人生が、幸せなんだから」「食べて、生きてこられたんだもん、それが暗いはずないよ」とアッケラカン。
宇多田は15日放送のラジオ番組で「私はもう大丈夫なので心配無用です」と気丈に語っていたが、本の中には宇多田の知らない母親の“素顔”があふれている。