映画評論家・前田有一選 「新時代のテロルを理解する」映画群
日本政府はイスラム国による人質事件で解決の糸口すら見つけられない状況だが、フランスではムハンマド風刺画を巡るテロ事件の影響で市民デモに370万人が集結。政府はイスラム国空爆のため空母派遣も決めた。なぜ問題はここまでエスカレートしたのか、その背景理解を助ける映画がある。
■「憎しみ」(95年、仏)
犯人グループと同じ移民2世たちの仏国内での悲惨な境遇を描く。スラムと化したパリ郊外で暮らす青年3人が、移民暴動の混乱の中、偶然警官の拳銃を手に入れる。移民の労働力を必要としなくなった政府から真っ先に見捨てられた彼らは、職もなく昼間からブラブラし、苛立ちからすぐに騒ぎを起こす。警察からも右翼ギャングからも狙われ、市民からも疎まれる四面楚歌な様子が全編モノクロで絶望感たっぷりに描かれる。
■「君を想って海をゆく」(09年、仏)
一般のフランス人が彼らをどう思っているかが描かれている。英国に移住した恋人に会うためドーバー海峡を渡ろうとする17歳のクルド難民少年を、見かねたフランス人の水泳コーチが助ける人間ドラマの傑作。人道的見地から少年に手を差し伸べることさえ、生活基盤を失うリスクを伴うことに驚くが、イスラム、アラブ系ならたとえ難民だろうが拒否する、これが仏社会の現実か。